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【唎酒師が解説】日本酒は酒器によって楽しさが変わる!酒器ごとの特徴も解説

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【唎酒師が解説】日本酒は酒器によって楽しさが変わる!酒器ごとの特徴も解説

執筆者情報

shiho
お酒とねこでできているライター。日本酒、ウイスキー、ワイン…すべてのお酒をこよなく愛す。酒好きが高じて利酒師免許を取得。 blog「わたしの酒棚」 https://sakadana.net/

監修者

日本酒ラボ編集部
日本酒ラボに携わってから日本酒のおいしさ・奥深さを知り、唎酒師の資格を取得。日本酒ラボを通して、日本酒のおいしさ・楽しさを日本酒にもあまり馴染みがない方にもお伝えしていきます。

日本酒には様々な飲み方・楽しみ方がありますが、酒器選びも日本酒の楽しみ方の一つです。

日本酒の酒器は、ガラス製や陶器製、錫(すず)など実にバリエーションが豊富です。近年はワイングラスで楽しむおしゃれなスタイルも見かけますよね。

酒器は雰囲気だけでなく、日本酒の味や香りに大きく影響するアイテム。「酒器を変えたら日本酒がまったく違う味わいに」と驚くことも少なくありません。今回は、日本酒好きにおすすめの酒器選びのポイントについて紹介します!

1.酒器によってなにが変わる?

「酒器(しゅき)」とは、お酒を注いだり飲んだりするための容器のことです。日本酒の香りや飲み口、味わいの感じ方は酒器によって次のように変化します。

1-1.香りの感じ方

日本酒の香りの感じ方は、酒器の形状によって変化します。リンゴや洋梨のようなフルーティーな香りを感じやすいのは、ぽってりと丸い形をした酒器です。

反対に、小ぶりで直線的な形状の酒器は香りを感じにくく、穏やかな香りの日本酒を飲むときに適しています。

日本酒の香りを楽しみたいときは、あえて大きめの酒器に注ぐのもひとつの方法です。お酒と空気が触れ合うことで香り成分が引き出され、味わいもまろやかに変化します。

また、木製の枡(ます)を使うと、日本酒本来の香りに木の香りがプラスされます。ヒノキや杉など、特徴的な香りの素材でできた酒器に注げば、また違った個性を楽しめそうですね。

1-2.飲み口の感じ方

飲み口の感じ方は、酒器の素材や厚みによって変化します。リムと呼ばれる縁の部分が薄いほどシャープに、厚いほど飲み口がやさしく感じられるでしょう。

ガラスの製品のなかには、非常に薄い素材の酒器も存在します。日本酒の香りや味わいをダイレクトに感じたいときにおすすめです。

1-3.味わいの感じ方

香りや飲み口の感じ方は、味わいにも影響します。人によっては、フルーティーな香りの日本酒ほど甘く感じられることもあるでしょう。

また、飲み口がやさしい酒器を使うと、味わいまろやかに感じることもあります。さらに、ガラスの涼しげな見た目や、陶器の温かみのある風合いが味の印象を左右することも。味の感じ方は人それぞれだからこそ、酒器選びはおもしろく奥が深いといえそうですね。

1-4.温度による味の変化

日本酒は、冷やしたり温めたりと幅広い温度帯で楽しめるお酒です。酒器の素材や形状にこだわれば、温度による味の変化をより楽しめます。

キリッと冷やした日本酒を楽しみたいときは、ガラス製の酒器がおすすめです。見た目が涼やかなだけでなく、お酒の冷たさが唇や指先からダイレクトに感じられます。

燗酒のパートナーには、小ぶりのお猪口(ちょこ)を選んでみましょう。温かいうちに飲み干せるだけでなく、お猪口から立ち上る香りやじんわりとした酒器の温もりなど、燗酒ならではの醍醐味を堪能できます。

燗酒

2.酒器に使われる素材ごとの特徴

日本酒の酒器には、以下のようにさまざまな素材が使われています。

  • 陶器
  • 磁器
  • 漆器
  • ガラス
  • 木製
  • 錫(すず)やチタンなどの金属製

前述したように、素材の見た目や手触りは味わいの印象を左右します。飲み口の感じ方、温度の感じ方も素材によってさまざまです。それぞれの特徴を知ると、酒器選びがもっと楽しくなりますよ。

2-1.陶器

陶器とは、粘土を原料とする焼き物のことです。一定の厚みがあり、素朴な風合いからは温もりが感じられます。

燗酒に用いられることも多く、和の食卓にもなじむアイテムです。代表的な焼き物には、備前焼や萩焼、瀬戸焼などが挙げられます。

陶器の酒器

2-2.磁器

磁器は、陶石(とうせき)と呼ばれる石の粉と粘土を原料とする焼き物です。陶器に比べ厚みは薄く、柄が入った華やかなタイプも数多く見られます。

質感はつるりとなめらかで、見た目は涼しげな印象です。前述した陶器とあわせ、陶磁器と呼ばれることもあります。

磁器の酒器

2-3.漆器

漆器は、木や紙の表面に漆(うるし)を塗り重ねたものです。艶のある黒色や赤色の漆器は、おめでたい席で目にすることも多いかもしれませんね。

漆器は保温性に優れ、燗酒の温かさを比較的長い間キープしてくれます。耐久性もあり、年月を重ねるごとに色艶が変化していくことも大きな特徴です。

漆器の酒器

2-4.ガラス

ガラス製の酒器は、冷酒を楽しむときにおすすめです。唇があたるリム部分が薄いものであれば、飲み口がよりスムースに感じられます。

中身が見えやすく、日本酒の色合いを楽しめることもメリットのひとつです。丸い形状のワイングラスであれば、日本酒のフルーティーな香りをより感じやすくなるでしょう。

ガラスの酒器

2-5.木製

枡のような木製の酒器は、軽く吸水性があることが大きな特徴です。ヒノキや杉を原料にしたものは、個性的な木の香りも感じられます。木ならではの質感や温度の伝わり方、口当たりなど、陶磁器やガラスにはない魅力を兼ね備えた酒器です。

木製の酒器

2-6.錫(すず)やチタンなどの金属製

錫製の酒器は、熱伝導に優れているのが特徴です。燗酒は温く、冷酒は器までしっかり冷えた状態で楽しめます。

また、熱伝導率が良いということは、手の温もりもお酒に伝わりやすいということです。日本酒を注いだ酒器を手で包み込むように持てば、温度による味の変化を楽しめます。

チタンは熱伝導率が低く、保温力と保冷力に優れていることが特徴です。アウトドアで日本酒を楽しむ際も、好みの温度帯を長時間キープできます。

錫、チタンともに金属特有の臭いが付く心配がないことも魅力です。さらに、錫は日本酒の味わいをまろやかにするといわれています。

一度錫の酒器で日本酒を味わえば、その違いに驚くはず。金属製の酒器は高価格帯のものが多いですが、機会があればぜひ試してみてくださいね。

チタン製の酒器

3.日本酒を飲むための酒器

日本酒を飲むための酒器といえばお猪口が代表的ですが、近年はワイングラスで楽しむスタイルも定着しつつあります。

酒器の種類の違いも、味や香りを左右する重要な要素です。ここからは、日本酒を飲むための酒器についてチェックしていきましょう。

3-1.猪口

日本酒を楽しむ酒器として、真っ先に「お猪口」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか?

「ちょこ」という呼び名は、安直なことを表す「直(ちょく)」に由来するといわれています。「直」には「ちょっとしたもの」「手軽なもの」という意味もあり、まさにちょこっとしたお猪口の姿を現すようですね。

ひとくちにお猪口といっても、形や素材など種類はさまざま。なかでも、底にぐるぐるっと青いうずが書かれたお猪口は「蛇の目の唎猪口(じゃのめのききちょこ)」と呼ばれています。青いうず模様があるため浮遊物や色合いが見やすく、杜氏や蔵人なども使用するお猪口です。

蛇の目の唎猪口(じゃのめのききちょこ)

3-2.ぐい呑み

お猪口よりも少し大きめの酒器は「ぐい呑み」と呼ばれます。「ぐいっと」「ぐいぐい」日本酒を飲めることが名前の由来です。

少し大きめのぐい呑みは、常温のお酒をゆったり楽しみたいときにおすすめです。副菜をちょこっと盛り付ける小鉢としても活用できますよ。

ぐい呑み

3-3.枡(ます)

木製の「枡(ます)」は、日本酒気分をグッと盛り上げてくれるアイテムですよね。「増す」「益す」という意味を持つことから、枡に注いだ「枡酒」は祝いの席でも好まれています。

また、飲食店でしばしば目にするのが「もっきり」と呼ばれるスタイルです。もっきりは、枡の中にグラスを置き、こぼれるほどなみなみと日本酒を注ぐ飲み方のこと。枡の木の香りがお酒に移り、また違った風合いが楽しめます。

もっきり

3-4.グラス

背が高く、開口部が広いワイングラスは、日本酒の華やかな香りを引き立ててくれます。香りが特徴の「大吟醸」「吟醸酒」と呼ばれる日本酒におすすめの酒器です。

スパークリングタイプの日本酒は、細く背の高いフルートグラスに注ぐのもおすすめ。美しい泡立ちを楽しめ、ドライな味わいがさらに引き立ちます。

ワイングラス

ボルドー型ワイングラス

ボルドー型ワイングラスは、香りが穏やでコクのある日本酒を楽しむときにおすすめです。グラスの形状がふくよかな香りを引き出してくれます。

ブルゴーニュ型ワイングラス

丸みのあるブルゴーニュ型ワイングラスは、華やかな香りの日本酒に適しています。グラスの形状が香りを包み、フルーティーな香りをより感じやすくなりますよ。

切子

冷たい日本酒を楽しむときは、切子グラスに注いでみましょう。見た目も涼やかで、冷たいうちに飲み切れます。リムが薄いものほど口当たりも良く、キリッとした味わいを感じやすくなることも特徴です。

4.日本酒を注ぐための酒器

日本酒を注ぐための酒器にもさまざまな種類があります。それぞれの特徴を知り、飲むための酒器とセットで揃えるのもまた楽しいですよ。

4-1.とっくり

燗酒を飲むときのお猪口のパートナー「とっくり」。くびれた首にぽってりとしたフォルムを持つ、お酒を注ぐための酒器です。とっくりの名前は、お酒を注ぐときの「とくりとくり」とした音に由来するといわれています。

本来、醤油やお酢の貯蔵容器だったとっくりが酒器として使われ始めたのは、江戸時代に入ってからのこと。それまでは「銚子(ちょうし)」と呼ばれる柄のついた酒器を用いるのが一般的でした。近年は「氷ポケット」のついた冷酒用のとっくりも登場しています。

とっくり

4-2.片口

「片口(かたくち)」は日本酒を注ぐ容器です。ふちの片側に、とがらせた口のような注ぎ口がついています。とっくりとの大きな違いは、開口部が広く、おわん型が多いこと。日本酒の香りを感じやすい形状です。

片口

4-3.ちろり

容器ごとお湯に入れて温める燗酒用の酒器です。鍋に掛けられるよう、ふちには取っ手が付いています。

名前の語源は「ちろりとすぐに温まるから」「地炉(いろり)で温めるから」などさまざま。銅や錫(すず)、アルミ製が多く、冬の日本酒時間を彩るアイテムです。

ちろり

4-4.銚子(ちょうし)

銚子は、注ぎ口と長い柄の付いた酒器です。古くは江戸時代から、あらたまった酒宴や三三九度などの儀式で用いられてきました。

現在は「お銚子1本ください」のように、とっくりを意味する言葉として使用されています。

5.日本酒を楽しむための酒器の選択のポイント

日本酒をよりおいしく楽しむために、酒器を選ぶときには以下のポイントに気を付けてみましょう。

  1. 日本酒の色合いから素材を選ぶ
  2. 日本酒の香りの特徴から形を選ぶ
  3. 飲む温度で大きさを選ぶ
  4. 味わいの好みから口径の大きさを選ぶ

ちょっとの工夫で味の印象が大きく変わり、日本酒を味わう時間がより楽しいものになりますよ。

5-1.日本酒の色合いから素材を選ぶ

日本酒は、製法によって無色透明のものやうっすら黄色く色付いたものが存在します。長年熟成させた古酒は、茶色や琥珀色の見た目が特徴です。

個性的な色合いの日本酒は、ガラス製のグラスや白い磁器製の酒器に注ぐと、その風合いをより一層楽しめます。複雑な香りと味わいが魅力的な古酒は、飲み切りサイズのショットグラスに注ぐのもおすすめです。

古酒とグラス

5-2.日本酒の香りの特徴から形を選ぶ

酒器の形は、香りの感じ方に大きく影響します。特に、香りの違いを感じやすいのがワイングラスです。丸く湾曲したグラスが日本酒を包み込み、広い口径からふわっと香りを立ち上らせます。華やかな香りの日本酒におすすめの形です。

反対に、お猪口やぐい呑みのような背の低い酒器は、スッキリとした味わいの日本酒に適しています。「キレがある」といわれるような辛口日本酒も、よりおいしく楽しめるでしょう。

5-3.飲む温度で大きさを選ぶ

日本酒を注ぐ酒器は、飲み切りサイズを選ぶのがポイントです。温かい燗酒も、最後までおいしい状態で味わえます。

直接口を付ける酒器は、日本酒の温度に合わせて選びましょう。冷酒や燗酒の場合は、小さな酒器のほうが好みの温度帯のままおいしくいただけます。

常温のお酒は、あえて大きめの酒器で気軽に楽しむのもおすすめです。少し大ぶりのぐい吞みに注ぎ、ぐいっといただくスタイルもまた粋ですね。

5-4.味わいの好みから口径の大きさを選ぶ

酒器の口の広さは、味の感じ方に大きく影響します。口の小さいもの、大きいもので口内に入るお酒の量が変わるからです。

口の小さなお猪口の場合、お酒は少しずつ口に入っていきます。そのため、味わいは軽快に感じられるのが特徴です。特に、キレのあるドライなお酒を飲むときに適しています。

反対に、ぐい呑みのように口の広い酒器は、口内に入るお酒の量は多くなり、味わいがより濃醇に感じられます。どっしりとした旨味を持つ日本酒は、口の広い酒器のほうがおいしさがより引き立つでしょう。

ちょっと変わったところでは、お酒を注ぐ酒器選びにもひと工夫。「お酒の味が固いかな」と感じたときは、口の広い片口を使ってみてください。空気とお酒が触れ合う面積が多いぶん、飲み口がまろやかになる効果が期待できます。

6.日本酒のタイプ別で見る酒器の選び方のポイント

日本酒の4つの香味特性分類

日本酒は、味や香りの個性によって図のような4タイプに分類されます。それぞれの個性をに合った酒器を選べば、日本酒のおいしさはさらに引き立ちます。4タイプ分類の特徴とともに、酒器選びのポイントを確認していきましょう。

4タイプ分類についてはこちらの記事でも詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。

日本酒の「薫酒」「爽酒」「醇酒」「熟酒」とは?4タイプの特徴について解説!

6-1.薫酒

薫酒は、華やかな香りをもつ日本酒です。味わいは軽く、ほんのりと甘みを感じることもあります。吟醸香(ぎんじょうか・ぎんじょうこう)が特徴的な「吟醸酒」に多いタイプです。

薫酒には、香りを感じやすい酒器を選んでみましょう。具体的には、丸い形状のワイングラスや、香りがダイレクトに感じられる口が広がったグラスがおすすめです。リムの薄いものであれば、薫酒ならではのスムースな飲み口も堪能できます。

6-2.爽酒

爽酒は「キレがある」といわれるようなシャープな飲み口が特徴です。香りは穏やかなタイプが多く、冷酒から燗酒まで幅広い温度帯で楽しめます。

冷酒で楽しむ際は、冷たいまま飲み切れる切子のような酒器がおすすめです。リムの薄い磁器製のお猪口に燗酒を注げば、キリっとした飲み口も楽しめるでしょう。

6-3.醇酒

醇酒は、ふくよかな香りとまろやかなコク、深みのある味わいが魅力です。燗酒にするとコクと旨味がさらに引き立ちます。米と米こうじのみで造られる「純米酒」や、昔ながらの製法を用いた「山廃」「生酛」と呼ばれるお酒に多いタイプです。

醇酒はぜひ、陶器製の酒器に注いで味わってみてください。やわらかな手触りと厚みのある飲み口が、醇酒の魅力をより引き立ててくれます。

温めた「山廃」や「生酛」を味わう際は、口の広い平盃もおすすめです。盃全体から日本酒の複雑かつ繊細な香りが立ち上り、奥深い旨味を堪能できます。

6-4.熟酒

熟酒は、個性的な見た目と味わいを兼ね備えたお酒です。長期間熟成させた「熟成酒」や「古酒」と呼ばれる日本酒が該当します。

見た目は黄色や茶色、琥珀色に色づき、スパイスやナッツ、ハチミツを思わせる香りが特徴です。通常の日本酒にはないような、甘みや苦味、酸味が重厚なハーモニーを奏でます。

少しずつゆったり楽しみたい熟酒は、小ぶりの酒器に注ぐのがおすすめです。ショットグラスや白い磁器製のお猪口に注げば、色合いがさらに映えます。

香りを引き出したいときは、ブランデーグラスを試してみてください。ゆっくりとグラスを回すごとに香りが広がり、光の当たり具合で変化する熟酒ならではの色合いも楽しめます。

まとめ

透明のガラス、温かみのある陶磁器、金属製の錫と日本酒用の酒器はさまざま。色や形など、自分のお気に入りを揃えるのも楽しみのひとつですよね。

味や香りの感じ方をガラリと変える酒器は、日本酒の大切なパートナー。大好きな日本酒にあわせ、とっておきの酒器を選んでみませんか?