日本酒のラベルやネーミングで目にする「火入れ」という文字。「火入れの目的は何?」「火入れの有無で味わいは違うの?」と疑問に感じたことはないでしょうか。
今回は、火入れの目的やタイミング、火入れをしていないお酒との違いについて紹介します。専門用語をひとつ理解するだけで、日本酒選びがもっと楽しくなりますよ。
目次
1.日本酒の「火入れ」とは?
日本酒の「火入れ」とは、加熱殺菌処理のことです。一般的な日本酒の製造工程では、2回火入れをおこないます。
火入れの目的は、お酒の色合いや味の劣化を防ぐため。搾ったばかりのお酒は、「糖化酵素」や「火落ち菌」などが含まれた状態です。
糖化酵素が残ったまま瓶に詰められたお酒は、デンプンが糖化し、味わいが変化する恐れがあります。また、乳酸菌の一種である火落ち菌などの微生物も、日本酒の色や香りを変化させる成分のひとつです。
そのため、日本酒の製造工程では60~65℃で10分ほど加熱する低温加熱殺菌をおこないます。
火入れをおこなう方法は、熱湯を張ったタンク内を流れる管にお酒を通す「蛇管式」や短時間で殺菌できる「プレートヒーター」など、蔵によってさまざまです。
2.火入れをしたお酒と火入れをしていないお酒の違い
火入れをしたお酒としていないお酒では、味わいだけでなく呼び名も変化します。「これは火入れをした日本酒?」と疑問に感じたときは、呼び名をチェックするのもひとつの方法です。
火入れは、「貯蔵する前」と「瓶に詰める前」の2回おこなわれます。
貯蔵前の火入れだけおこない、そのまま瓶詰めしたお酒は「生詰め酒」。生の状態で貯蔵し、瓶詰め前に火入れしたお酒は「生貯蔵酒」と呼ばれます。
また、どちらの火入れもしないお酒は「生酒」(なまざけ・きざけ)と呼ばれます。
1度も火入れをしていない生酒は、みずみずしい味わいが持ち味。そのぶん、味や香りが変化しやすいため、低温保管が基本とされています。
3.火入れのタイミング
前述したように、日本酒の製造工程では火入れを2度おこないます。ここでは、具体的な製造工程とあわせ、火入れのタイミングについて深掘りしていきましょう。また、新たな手法といわれる「瓶火入れ」も紹介します。
3-1.ろ過後におこなう「貯蔵前火入れ」
日本酒は、米と麹、水を原料とした醪(もろみ)と呼ばれる液体を搾ってできあがります。
絞った後におこなうのが「滓引き(おりびき)」と「ろ過」と呼ばれる工程です。
滓引きではお酒に残った米粒などの固形物を取り除き、ろ過でさらに細かい固形物の除去や色味の調整などをおこないます。
1回目の「貯蔵前火入れ」は、ろ過のあとにおこなう工程です。火入れ後のお酒は、タンクでしばらく貯蔵されます。
3-2.瓶詰め前の「瓶詰前火入れ」
貯蔵後は、タンクごとの調合や加水調整を経て、2回目のろ過と火入れがおこなわれます。
この、2回目の火入れが「瓶詰前火入れ」です。2回目の火入れ後、お酒は瓶に詰められます。前述したように、瓶詰前火入れのみをおこなうお酒は生貯蔵酒と呼ばれます。
3-3.フレッシュな状態を保ちやすい「瓶燗火入れ」
前述した2つの火入れは、古くからおこなわれてきた製造方法です。近年は、新たな手法として「瓶燗火入れ」と呼ばれる殺菌方法が注目されています。
瓶燗火入れはその名のとおり、お酒を瓶に詰めてから加熱処理をおこなう方法です。また、貯蔵はタンクではなく、瓶に詰めた状態でおこないます。
瓶燗火入れは、お酒の酸化を防ぐことができ、フレッシュな状態を保ちやすい手法だといわれています。一方で、貯蔵に大型の冷蔵庫が必要だったり、手間がかかったりとコストがかかることも特徴です。
また、近年はパストライザーと呼ばれる機器で火入れをおこなう「瓶囲い」にあたる日本酒も増えつつあります。
4.火入れをしたお酒でも保存には要注意!
火入れは、日本酒の味や香りの安定を目的におこなわれます。しかし、火入れをしたお酒でも、保存方法を誤ると劣化する恐れがあるため注意が必要です。
特に、紫外線や高い温度は日本酒の品質に変化をもたらします。紫外線の影響を受けると「日光臭(にっこうしゅう)」と呼ばれる劣化臭が生じるため注意しましょう。また、温度の高い場所で保管したお酒は、色合いが黄色く変化してしまいます。
火入れしたお酒の美味しさをキープするためにも、日本酒は紫外線を避けながら涼しい場所で保管するように心がけてくださいね。
まとめ
火入れは、日本酒造りで古くからおこなわれてきた製法です。日本酒は、火入れの回数やタイミングによって、味わいや呼び名が変化します。
米と麹、水というシンプルな材料を用いつつ、製造方法によって生まれるさまざまな変化は日本酒の魅力のひとつ。
「自分の好みは火入れをしたお酒」「火入れをしていない生酒が好き」など、ぜひ自分なりの好みを見つけてみてくださいね。
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