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日本酒の製造工程6ステップ!米から美味しい日本酒ができるまで

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日本酒の製造工程6ステップ!米から美味しい日本酒ができるまで

執筆者情報

shiho
お酒とねこでできているライター。日本酒、ウイスキー、ワイン…すべてのお酒をこよなく愛す。酒好きが高じて利酒師免許を取得。 blog「わたしの酒棚」 https://sakadana.net/

監修者

日本酒ラボ編集部
日本酒ラボに携わってから日本酒のおいしさ・奥深さを知り、唎酒師の資格を取得。日本酒ラボを通して、日本酒のおいしさ・楽しさを日本酒にもあまり馴染みがない方にもお伝えしていきます。

日本酒の製造工程は、主に6つの流れに沿って進みます。その期間は約60日間。今回は、日本酒の製造工程を唎酒師がわかりやすく解説します。

米が日本酒に変身するヒミツを知れば、ラベルに書かれた漢字の意味も「なるほど!」と納得いくはずですよ。

1.日本酒造りの6ステップ

米と米麹、水というシンプルな原料は、以下の6つのステップを経て日本酒へと生まれ変わります。

  1. 米の準備
  2. 米を蒸す
  3. 麹(こうじ)を造る
  4. 酒母(しゅぼ)を造る
  5. 醪(もろみ)を造る
  6. 醪を搾って瓶に詰める

「麹?酒母?なんのこと?」という日本酒ビギナーでも大丈夫!ここからは、一つひとつの工程をわかりやすく紹介していきます。

1-1.米の準備

日本酒になる前の米は、皮をかぶった玄米の状態。準備段階では米の外側を削り、水分を吸収させていきます。

精米(せいまい)

玄米を削り、白米の状態にすることを「精米」といいます。精米の大きな目的は、米の表面にある雑味のもとを取り除くことです。

米の表面には、タンパク質や脂質、ビタミン、ミネラルといった栄養素が含まれています。

食用米はそれらが旨味のもとになるのですが、日本酒の場合はかえって味に雑味を生んでしまうことも。そのため、食用米よりも多く外側を削る必要があります。

食用米の場合、外側を削る度合いは全体の8%程度。一方、日本酒造りでは30%以上削るのが一般的です。

精米には竪型(たてがた)精米機と呼ばれる見上げるほど大きな精米機が使用されます。

30%以上精米するのにかかる時間は約8時間。60%以上精米する場合は、約48時間もの時間を要するというからすごいですよね。

枯らし

精米したての米は、摩擦でホカホカと温かい状態です。水を吸わせるためには、一度温度を下げなくてはいけません。そのまま水につけると、米が割れたり、水分を吸収しすぎたりする恐れがあるからです。

「枯らし」と呼ばれる熱さましの期間は、2~3週間。精米した米は専用の袋に詰められ、冷暗所で静かに水との出会いを待ちます。

洗米(せんまい)/浸積(しんせき)/水切り

「洗米」の目的は、米の表面についた糠(ぬか)や米くずを洗い流すことです。洗い流す間も水分は吸収されていくため、作業時は細心の注意を払わなくてはいけません。

「浸漬」は、洗った米に水分を吸わせる作業です。その後の麹のできを決める重要な作業だといわれています。

米が水分を吸っていく速度は、その日の気温や湿度、水温などによってさまざま。最適な時間を見極めるため、蔵人はストップウォッチで浸漬時間を計測することもあります。

その後、米やお酒の種類に合わせた状態まで水を切ったら準備は完了!いよいよ蒸す工程へと移ります。

1-2.米を蒸す

米を蒸す最大の目的は、麹菌の作用を受けやすい状態に米を変化させることです。生米よりも、加熱した米のほうがその後の工程で溶けやすくなります。

理想の蒸し加減は「外硬内軟(がいこうないなん)」と呼ばれる、外は硬く内側がやわらかい状態。蒸米(むしまい)を手のひらサイズに丸めた「ひねり餅」を作り、手の感触で蒸し加減を確認することもあります。

蒸しあがった米は、一定の温度まで冷ましていきます。放冷(ほうれい)と呼ばれ、自然冷却のほかファンで冷やすなど、手法は蔵によってさまざまです。

できあがった蒸米は、この後の麹、酒母、醪づくりすべてに使用します。

1-3.米麹を造る(製麹)

3ステップ目は、蒸米を使って米麹を造る工程です。米麹とは、蒸米に麹菌を繁殖させたもの。この工程は「製麹(せいぎく)」とも呼ばれます。

米からアルコールを生み出すためには、米のデンプンをブドウ糖へと変化させなくてはいけません。製麹は、そのために欠かせない作業です。

製麹にかかる期間は、約2日間。麹菌を繁殖させるため、麹室(こうじむろ)と呼ばれる高温多湿の環境で以下の作業をおこないます。

引き込み

34~36℃になった蒸米を麹室に運び、温度を均一にさせるために布をかけて休ませます。布団をかぶった蒸米が眠っているような状態です。

種付け/床もみ(とこもみ)

眠っていた蒸米を崩し、床(とこ)と呼ばれる台一面に広げます。その上に、麹菌の胞子を振りかける作業が「種付け」です。その後、胞子がまんべんなく行き渡るように混ぜ込む「床もみ」と呼ばれる作業に移ります。

切り返し

数時間から半日後、硬くなった米をほぐす「切り返し」をおこないます。切り返した米はひとつにまとめ、再度布で包んで休ませます。

盛り

切り返し後、数時間から半日すると、米にぽつぽつと白い斑点が浮かび上がります。そのままにすると温度が上がりすぎてしまうため、木箱に蒸米を小分けする「盛り」をおこないます。

仲仕事

数時間後、木箱の蒸米が熱くなりすぎないよう、まんべんなく混ぜてから均一の厚さに広げます。

仕舞(しまい)仕事

仲仕事から数時間たつと、38~39℃まで蒸米の温度が上昇します。仕舞仕事は、蒸米の温度を均一にし、余分な水分を蒸発させるための作業です。広げた蒸米にうずのような溝を作り、表面積を大きくします。

出麹(でこうじ)

麹の温度を下げるため、麹室から木箱を運び出す作業です。できあがった米麹は「酒母づくり」と「醪づくり」に使うものに分けられます。

仕舞仕事から出麹までの時間は、酒母に使う麹で約12時間、醪に使う麹は約8時間。日本酒の原料となる米麹のできあがりです!

1-4.酒母(しゅぼ)を造る

ここまでの工程で、日本酒の原料である米と米麹が揃ったことになります。

ただ、これだけでは日本酒にはなりません。この2つをアルコール発酵させるために欠かせないのが「酒母」です。酒母は、蒸米と米麹、水を入れたタンクに「酵母」と「乳酸」を加えて造ります。

酵母は、アルコール発酵を促す成分です。酵母はほかの微生物より弱いものの、酸性に強いという特性があります。

乳酸は、タンク内を酸性に保つために投入するアイテム。ほかの微生物は酸性に弱いため、タンク内は酵母が活動しやすい環境になるということですね。

高温多湿の麹室と異なり、不用な微生物が入り込まないよう、酒母づくりはひんやりとした酒母室でおこなわれます。

1-5.醪(もろみ)を造る

いよいよ日本酒造りも最終段階。蒸米と米麹、酒母と日本酒造りに必要な材料が揃いました。

醪(もろみ)とは、これらすべてを混ぜた液体のこと醪づくりは、アルコール発酵を進めていく作業です。

とはいえ、これらの材料は一度に全部混ぜるわけではありません。材料の投入は、4日間で3回に分けておこなわれます。江戸時代から続く「三段仕込み」と呼ばれる製法です。

すべての材料を合わせたあとは、3週間から5週間かけてアルコール発酵させていきます。このときのポイントとなるのが温度管理。お酒の種類に合わせ、醪はおよそ15℃前後、または10℃以下に保たれます。

発酵が進んだ醪の表面は、ふわふわと真っ白な泡に包まれた状態。泡が消え、液体化してきたらできあがりの合図です。数日から1週間後に搾りの段階へと移ります。

1-6.醪を搾って瓶に詰める

アルコール発酵が完了した醪は、搾ったあとに以下の段階を経て瓶詰めし、蔵から出荷されます。

上槽(じょうそう)

醪が入った袋を絞り、酒粕と液体とに分離させる作業です。槽(ふね)と呼ばれる大きな長方形の器具を使用するものや、袋を吊り下げるもの、自動圧搾機を使うものなど、さまざまな手法があります。

滓引き(おりびき)

搾ったお酒は、滓(おり)と呼ばれる米粒や麹などの固形物が残った状態です。貯蔵タンクにお酒を入れて滓を沈殿させ、澄んだ部分だけを抽出する作業を「滓引き」といいます。

濾過(ろか)(1回目)

滓引きしたお酒の固形物をさらに除去し、色や香りの調整をおこなう作業です。通常の日本酒造りでは、濾過は2回おこないます。

1回目の濾過の目的は、残った固形物や酵母の除去。フィルターのついた機械を使うほか、粉末状の活性炭を投入する場合もあります。

火入れ(1回目)/貯蔵

「火入れ」とは、お酒を60~65℃の温度で加熱殺菌することです。濾過と同様に、火入れも2回おこないます。味や色、香りの変化を防ぐことが火入れの目的です。

火入れ後のお酒は、タンクで貯蔵します。貯蔵温度はお酒の種類によって異なり、15℃前後、または5℃から10℃が主流です。

調合/加水

貯蔵後のお酒は、タンクごとの酒質を一定にするため調合(ブレンド)されます。その後、アルコール度数と香りのバランスを調整するため、仕込み水と呼ばれる水を加えます。

濾過(2回目)/瓶詰め/火入れ(2回目)

加水によってアルコール度数15~16%に調整したお酒は、2回目の濾過と火入れをおこない瓶詰めします。近年は、瓶に詰めてから火入れをおこなう「瓶火入れ」という手法もあります。

これらの工程を終えれば、いよいよ出荷!各酒販店への流通経路を経て、わたしたちのもとに美味しい日本酒が届けられます。

2.製造過程で変わる日本酒の種類

日本酒は、製造過程の違いでさまざまな味わいに変化します。「生酛?生酒?なんのこと?」という日本酒にありがちな疑問も、違いがわかればスッキリ解決しますよ。

2-1.酒母づくりで変わる「生酛(きもと)」「山廃酛(やまはいもと)」

酒母づくりでは、タンクを酸性にするために乳酸を添加するとお話しました。

この乳酸を、自然の力に任せて育てたお酒が「生酛」「山廃酛」と呼ばれる日本酒です。乳酸菌を添加する方法に比べ、製造には時間やコスト、手間ひまがかかります。

生酛や山廃酛は、乳酸菌由来のクリーミーな風味が特徴。濃醇でありながら、どこか繊細で奥深い味わいを楽しめます。

2-2.火入れ回数で変わる「生酒」「生貯蔵酒」「生詰め酒」

日本酒は、火入れの回数によって次のように呼び名が変わります。

1回目の火入れ 2回目の火入れ
生酒 なし なし
生貯蔵酒 なし あり
生詰め酒 あり なし

火入れを1度もしない生酒は、フレッシュでジュシーな味わい。シュワシュワとした微発砲感を感じるものもあります。

2-3.蔵で貯蔵をせずに出荷する「新酒」

「新酒」は、貯蔵をせずにすぐに出荷される日本酒です。明確な定義はないものの、冬から春にかけて登場するその年のお酒が新酒と呼ばれています。

同じ蔵、同じ銘柄のお酒であっても、その年によって少しずつ味わいは違うもの。新酒が登場する12月から3月は、日本酒ファンにとって待ち遠しいシーズンといえるかもしれませんね。

まとめ

日本酒の製造工程、いかがでしたか?米というシンプルな原料がお酒になるには、微生物の働きが大きく関係しています。

温度を上げたり、下げたりしながら進める日本酒造りは、まるで生き物を育てているかのよう。そう考えると、日本酒を飲むのがまた楽しくなりそうですね。