日本酒の原料である酒米には、「酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)」が多く用いられます。食用米と違い、酒造りにより適した特性を持つお米です。
今回は、酒造好適米の種類や特徴についてわかりやすく解説します。「酒米ってどんなお米?」「種類による違いが知りたい!」という方は、ぜひチェックしてみてくださいね。
目次
1.酒米(酒造好適米)の特徴
日本酒造りに使うお米は、「酒米(さかまい)」と呼ばれています。酒米は、日本酒の味わいを左右する主原料。なかでも、日本酒造りに適している品種が「酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)」です。
酒造りには食用の「飯用一般米」が使用されることもありますが、ここでは酒造好適米を『酒米』として特徴を紹介します。
まずは、酒米の「粒の大きさ」「心白(しんぱく)の大きさ」「栄養素」について確認していきましょう。
1-1.粒が大きく張りが良い
酒米は飯米に比べ、粒が大きく張りが良いという特徴があります。
千粒量(せんりゅうじゅう)と呼ばれる米1000粒あたりの重さを比較した場合、一般的なコシヒカリが22g前後であるのに対し、酒米は25g~30gです。
酒米の粒の大きさは、日本酒造りにおいて「精米しやすい」というメリットをもたらします。
日本酒造りでは、味の雑味の原因となる栄養素を取り除くため、米の外側をより多く削り取るのが一般的です。
飯米が8%程度削るのに対し、酒米の場合は30%以上削り取ることがほとんど。50~60%と、半分以上削ることも珍しくありません。
より多く削るほど、摩擦熱で米は砕けやすくなります。大粒で張りの良い酒米は砕けにくく、より多く精米する日本酒造りに適しているのです。
1-2.適切な形状の心白がある
酒米のなかには、「心白(しんぱく)」をもつ品種があります。心白とは、米の中心にある白く濁ったように見える部分のことです。
食用米は、心白のない全体が半透明の米が一般的です。心白がある米が多数混ざると、見た目の品質が劣るともいわれています。
ところが、酒米の場合は、心白があることが酒造りにおけるメリットになります。心白はやわらかく、給水時に生まれた亀裂から内部へと麹菌が入り込み、菌が繁殖しやすくなるからです。
一方で、心白が大きな米は砕けやすいというデメリットをもちます。そのデメリットを補うのが、心白の「形状」です。
心白の形状は、以下のように5つの種類にわかれます。
球状に大きく入った「眼状心白」は、削る際に砕けやすいのが特徴です。反対に、薄い円盤のような形の「線状心白」、小さな球状の「点状心白」は周囲が削りやすく、外側をより多く削る高精白に適しています。
1-3.タンパク質や脂質が少ない
米には、炭水化物をはじめ、タンパク質や脂質、ビタミンといった栄養素が含まれています。
酒米は飯米に比べ、タンパク質や脂質が少ないことが特徴です。食用では旨味をもたらす栄養素も、日本酒造りでは雑味の原因になり得ます。
タンパク質は米の吸水性を低下させるほか、味わいにも大きな影響を与えます。脂質は香りの出現を妨げる原因にもなることから、酒米にはタンパク質と脂質の含有率の低さが求められるのです。
1-4.吸水率がよい
日本酒造りでは、酒米を洗ってから水に浸け、蒸して使用します。米を水に浸ける「浸漬(しんせき)」は、酒造りにおいて重要視される工程です。米の吸収率は蒸米の仕上がり、ひいては酒の仕上がりを大きく左右します。
米を蒸した後の理想とされるのは、外側が硬く内側が軟らかな「外硬内軟(がいこうないなん)」と呼ばれる蒸米です。酒米のように心白があり、タンパク質の含有量が少ない米は吸水性がよく、外硬内軟の蒸米が仕上がりやすいといわれています。
2.酒造好適米は非常にコストのかかる原料
酒造好適米は、非常にコストのかかる原料です。農林水産省の発表によると、主食として食べられる米の取引価格が1kgあたり約202円であるのに対し、山田錦は約393円と2倍近く差があることがわかります。
(出典元:日本酒をめぐる状況 農林水産省政策統括部)
この理由は、酒造好適米の栽培の難しさと収穫量の低さにあります。酒造好適米の稲穂は背が高く、病害虫に弱い品種が多いことが特徴です。
寒暖差の大きな山間部で育てたり、苗の間隔をあけて通気性をよくしたりと、酒造好適米の栽培には手間と技術を要します。
そのため、酒造好適米の生産量は米全体の生産量の1%ほどしかありません。なかでも、兵庫県の「特A地区」と呼ばれる地域で育つ山田錦は最高峰とされています。
3.酒米の有名品種トップ5
ここからは、ラベルや商品名でよく目にする5種の酒米について紹介します。
- 山田錦(やまだにしき)
- 雄町(おまち)
- 五百万石(ごひゃくまんごく)
- 美山錦(みやまにしき)
- 出羽燦々(でわさんさん)
酒米の個性による味わいの違いは、日本酒の大きな魅力のひとつ。日本酒選びに迷ったら、酒米に着目してみるのも楽しいですよ。
3-1.山田錦(やまだにしき)
主な生産地:兵庫県、岡山県、山口県
山田錦は、酒米の王様とも呼ばれる品種です。
心白が薄い線状に入っているため、米をより多く削る高精白が可能。米質がやわらかく、醪に溶けやすいため吟醸造りに適しています。
吟醸造りとは、高精白の米を原料に、低温でじっくり発酵させる製法のこと。一般的に、山田錦を使用した日本酒は「味わいふくよかでありながら、きれいな香りを持つお酒に仕上がる」といわれています。
3-2.雄町(おまち)
主な生産地:岡山県、広島県
雄町は、備前国上道郡高島村雄町(現在の岡山市中区雄町)の農家が発見した酒米です。当初は「二本草」と命名されていましたが、普及とともに雄町と呼ばれるようになりました。
雄町は大粒で心白が大きく、軟質で溶けやすいことが特徴。昭和初期には「品評会で上位入賞するには雄町で醸した吟醸酒でなければ不可能」とまで言われた歴史も持ちます。
心白が大きいため高精白には不向きなぶん、芳醇でコクがあり、しっかりした味わいのお酒に仕上がることも雄町の魅力です。
3-3.五百万石(ごひゃくまんごく)
主な生産地:新潟県、富山県、福井県
お米大国でおなじみの新潟が誇る酒造好適米、五百万石。
五百万石は、米粒が小さい反面、心白が大きな酒米です。そのため、高精白の酒米で造る吟醸造りには適さないものの、麹が造りやすいという特性を持ちます。
やや硬く、溶けにくい五百万石で造る日本酒は、スッキリとした味わいが特徴。五百万石を使った新潟県の地酒は、端麗辛口ブームの火付け役にもなりました。
3-4.美山錦(みやまにしき)
主な生産地:長野県、秋田県、山形県
1972年(昭和47年)、長野県農事試験場で開発が始まり、1978年(昭和53年)に誕生した美山錦。その名は、北アルプスの雪のように美しい心白に由来します。
香りは繊細かつ華やか。味わいは軽く、キレのあるお酒に仕上りやすいといわれています。吟醸酒や純米吟醸酒など、フルーティーな香りの日本酒造りにも向いている酒米です。
3-5.出羽燦々(でわさんさん)
主な生産地:山形県
出羽燦々は、山形県がおよそ11年の月日をかけて開発した酒米です。出羽燦々で造る日本酒は、雑味が少なく、キレのある味わいになりやすいといわれています。
また、吟醸県ともいわれる山形の酒米らしく、華やかな香りを生み出すことも特徴。山形県では、出羽燦々を使用した純米吟醸に「DEWA33」という認定基準も設けています。
4.都道府県別の酒米まとめ
酒米は、山田錦の主要産地である兵庫県をはじめ、北から南まで全国各地で生産されています。気候がもたらす品種の特性はもちろん、ネーミングにも地域性があらわれているのが特徴です。ぜひ、各土地の風土を感じながら、地酒を味わってみてください。
北海道 | 吟風(ぎんぷう)、彗星、きたしずく |
青森県 | 華吹雪、華想い |
岩手県 | 吟ぎんが、ぎんおとめ、結の香(ゆいのか) |
宮城県 | 蔵の華、ひより |
秋田県 | 秋田酒こまち、秋の精(あきのせい) |
山形県 | 出羽燦々、出羽の里 |
福島県 | 夢の香(ゆめのかおり) |
茨城県 | ひたち錦 |
栃木県 | とちぎ酒14 |
群馬県 | 舞風(まいかぜ) |
埼玉県 | さけ武蔵 |
千葉県 | 総の舞(ふさのまい) |
神奈川県 | 楽風舞(らくふうまい) |
新潟県 | 五百万石、一本〆 |
富山県 | 雄山錦、富の香(とみのかおり) |
石川県 | 石川酒52号、石川門 |
福井県 | 越の雫(こしのしずく) |
長野県 | 美山錦、金紋錦、しらかば錦 |
岐阜県 | ひだほまれ |
静岡県 | 誉富士(ほまれふじ) |
愛知県 | 夢吟香、夢山水、若水 |
三重県 | 神の穂、伊勢錦 |
滋賀県 | 吟吹雪 |
京都府 | 祝(いわい) |
兵庫県 | 山田錦、兵庫夢錦 |
奈良県 | 露葉風(つゆはかぜ) |
鳥取県 | 強力(ごうりき) |
島根県 | 佐香錦(さかにしき)、神の舞(かんのまい) |
岡山県 | 雄町 |
広島県 | 八反錦1号、八反35号 |
山口県 | 西都の雫 |
愛媛県 | しずく媛 |
高知県 | 吟の夢、風鳴子 |
福井県 | 吟のさと、壽限無(じゅげむ) |
佐賀県 | さがの華、西海134号 |
熊本県 | 華錦 |
宮崎県 | はなかぐら、ちほのまい |
まとめ
酒造好適米は、日本酒造りに欠かせない存在です。酒米の個性がお酒の造り方、仕上がりを大きく左右します。
また、各都道府県では日本酒の品質向上を目指し、さまざまな酒米の開発が進められています。酒蔵はもちろん、農家や研究者など、酒米に携わる方々を思いながら日本酒を楽しんでみてはいかがでしょうか。