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日本酒造りに使われる水は特別な水?酒造用水について解説!

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日本酒造りに使われる水は特別な水?酒造用水について解説!

執筆者情報

shiho
お酒とねこでできているライター。日本酒、ウイスキー、ワイン…すべてのお酒をこよなく愛す。酒好きが高じて利酒師免許を取得。 blog「わたしの酒棚」 https://sakadana.net/

監修者

日本酒ラボ編集部
日本酒ラボに携わってから日本酒のおいしさ・奥深さを知り、唎酒師の資格を取得。日本酒ラボを通して、日本酒のおいしさ・楽しさを日本酒にもあまり馴染みがない方にもお伝えしていきます。

日本酒は米と米麹、そして多くの「水」によって造られるお酒です。日本酒造りに使う水は「酒造用水(しゅぞうようすい)」と呼ばれ、水道水とは異なる水質基準が設けられています。

今回は、日本酒造りに欠かせない酒造用水について詳しく解説。日本酒の味わいを左右する酒造用水の成分、硬水と軟水の違いなどをご紹介します。

1.日本酒造りに使用される水「酒造用水」

日本酒造りに使用される水は「酒造用水」と呼ばれます。酒造用水は、水道水よりも厳しい基準が設けられている水です。色や味のほか、成分量も基準値をクリアする必要があります。

全成分の約80%を占めるほど、日本酒にとって水は大きな存在です。多くの酒蔵では、近くを流れる河川の伏流水が酒造用水に用いられています。

酒造用水のイメージ

1-1.酒造用水とは

酒造用水は、用途によって「醸造用水」と「瓶詰用水」に大別されます。醸造用水は、その名のとおり酒の仕込みに用いられる水です。米を洗ったり、蒸したりする際に使用します。

瓶詰用水は、できあがったお酒を瓶詰する際に必要な水です。以下の図のように、瓶を洗うための水にも、水道水ではなく酒造用水が用いられます。

また、できあがったばかりの日本酒はアルコール度数が高く「割水(わりみず)」と呼ばれる水を加え、度数や香りを調整するのが一般的です。その際も、厳しい基準値をクリアした瓶詰用水が活躍します。

酒造用水の分類
酒造用水の分類

1-2.酒造用水に必要な成分/不必要な成分

酒造用水には、必要な成分と不必要な成分があります。成分の有無や量が日本酒の仕上がりに影響するからです。

酒造用水に必要な成分

酒造用水に必要なのは、麹菌や酵母の栄養源となる以下の成分です。

  • カリウム
  • リン
  • マグネシウム

日本酒の原料である米と米麹は、麹菌や酵母の働きによってアルコールを生成します。そのため、酒造用水にはこれらの成分が欠かせません。不足していると思うように麹菌や酵母が働かず、発酵がうまくいかないこともあります。

酒造用水に不必要な成分

酒造用水に不必要とされるのは、以下のような成分です。

  • マンガン
  • 重金属類
  • アンモニア
  • 亜硝酸
  • 硝酸
  • 細菌
  • 野生酵母

鉄やマンガンは、日本酒の色や味わいに影響を及ぼします。酒造用水の水質基準では、鉄とマンガンの許容量は0.02ppm以下です。

また、重金属類の許容量は、水道水の水質基準以下に設定されています。水質汚染が疑われるアンモニアを含む水や、細菌や野生酵母が繁殖した水が酒造用水に使用されることはありません。

2.硬水・軟水による違い

水の硬度は、水中に含まれるミネラルの含有量によって決まります。マグネシウムやカルシウムなどのミネラル含有量が多い水が「硬水」、少ない水が「軟水」です。

日本の水は軟水が多く、水の硬度は日本酒の味わいに大きな影響をもたらします。

2-1.硬水が使われた日本酒の主な特徴

酒造用水は、硬度14dhから硬水と判断されます。硬水が使われた日本酒は、甘さの少ない辛口の味わいが特徴です。酵母の栄養源となるミネラルを多く含むため発酵が活発に進み、アルコール度数は高くなります。

2-2.軟水が使われた日本酒の主な特徴

軟水はミネラルの含有量が少なく、アルコール発酵がゆるやかに進みます。そのため、軟水が使われた日本酒は、まろやかで繊細な味わいが特徴です。硬水を使った日本酒に比べ仕上がりのアルコール度数も低く、全体的にライトな味わいの日本酒が多くなります。

軟水が使われた日本酒のイメージ

3.三大酒どころ「灘」「伏見」「西条」仕込み水の特徴

日本国内には三大酒どころと呼ばれる、日本酒の生産地があります。

  • 兵庫県・灘
  • 京都・伏見
  • 広島・西条

灘の水は軽硬水、伏見と西条の水は中軟水です(※)。水の成分が異なるぶん、日本酒の味わいにも土地ごとの個性が生まれます。
※国税庁所定分析法による

3-1.兵庫県・灘の宮水(みやみず)

兵庫県神戸市や西宮市の沿岸部には、古くから多くの酒蔵が建ち並びます。灘、灘五郷(なだごごう)と呼ばれる日本酒の一大産地です。

灘では「宮水」と呼ばれる水を用いた、キレのあるお酒が生み出されています。宮水は、ミネラル分を多く含む軽硬水です。一方で、味や香りに影響する鉄の含有量は極めて少なく、良質な酒造りに適しています。しっかりとした味わいの灘のお酒は、古くから「灘の男酒」として親しまれています。

3-2.京都・伏見の御香水(ごこうすい)

京都府の伏見は、古くから良質な水に恵まれた地域です。水質は中軟水にあたり、カリウムやカルシウムなどをバランス良く含んでいます。

御香水(ごこうすい)ともいわれる伏見の水で生まれるお酒は、やわらかな口あたりが特徴です。その味わいから、「灘の男酒」に対し「伏見の女酒」と呼ばれています。近年は、製造方法により、辛口のキリッとしたタイプの銘柄も数多く生まれています。

3-3.広島・西条の中軟水

東広島市の西条は、駅周辺に7つの酒蔵がひしめく酒どころです。多くの酒蔵が使用しているのが、盆地を囲む龍王山の伏流水。山で軟水だった水は、地下を通り盆地に届く間にミネラルを含む中軟水へと変化していきます。

明治時代に開発された「軟水醸造法」により、中軟水を使った西条の日本酒の質はより向上をみせます。きめ細やかでふくよかな味わいは、たちまち全国で評判に。西条ではまち全体で水を大切にしようという取り組みもおこなわれ、仕込み水が飲める井戸が設けられた蔵も存在します。

まとめ

米や米麹に並ぶ日本酒の主原料、水。「灘の男酒」、「伏見の女酒」という言葉が存在するように、水は古くから重要な存在として認識されてきました。

各地の水の個性は、日本酒の個性となって味に現れます。おいしい日本酒を片手に、日本酒の生まれた場所、その土地の水に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。