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「地酒」の定義とは?日本酒や清酒との違いを解説

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「地酒」の定義とは?日本酒や清酒との違いを解説

執筆者情報

shiho
お酒とねこでできているライター。日本酒、ウイスキー、ワイン…すべてのお酒をこよなく愛す。酒好きが高じて利酒師免許を取得。 blog「わたしの酒棚」 https://sakadana.net/

日本各地で造られている地酒(じざけ)。見聞きする機会は多いものの「地酒とは?」と聞かれると答えに迷う方も多いのではないでしょうか。

今回は、地酒の定義や日本酒との違いについて解説します。さらに、日本各地の地酒の特徴やおすすめ銘柄もご紹介。地酒の世界を知れば、日本酒がもっと美味しく楽しいものになりますよ。

1.地酒とは?定義や日本酒との違い

地酒とは、特定の地域で造られたその土地ならではのお酒のことです。昭和後期には地酒ブームが巻き起こり、新潟の淡麗辛口のお酒が人気を博しました。まずは、地酒の定義や日本酒との違い、地酒ブーム誕生の背景についてみていきましょう。

1-1.地酒の定義は2つ

「精選版 日本国語大辞典」では、「地酒」は以下のように定義されています。

〘名〙 その土地でつくられる酒。その土地独特の酒。いなか酒。

参考:コトバンク「地酒とは」

“その土地でつくられる酒”という定義でみた場合、日本酒以外にも地酒は存在するといえます。近年は、小さな醸造所が造るクラフトビールや国産ワインも人気です。

また、デジタル大辞泉では地酒を以下のように定義しています。

その地方でつくられる清酒。特に、灘(なだ)や伏見(ふしみ)を除いた地方のものをさす。

参考:weblio辞書「地酒の意味・解説」

ここでいう清酒とは、いわゆる日本酒のことです。灘は兵庫県、伏見は京都府に位置します。江戸時代、灘や伏見は日本酒の主要産地でした。その他の地域のお酒は地酒と呼ばれ、別の物として扱われていたのです。

現在は、大手酒造メーカーが手がけるような、全国流通するお酒以外も地酒と呼ばれています。一般的には、灘や伏見を除いた地域で、小規模生産されるお酒を指すことが多いでしょう。

1-2.地酒と清酒、日本酒の違いとは?

“その地方でつくられる清酒”と定義されているように、地酒は清酒のひとつです。清酒とは、米と米麹、水を原料に発酵させてこしたお酒のこと。国税庁の酒税法では、清酒は以下のように定義されています。

・米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの
・米、水及び清酒かす、米こうじその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの(イ又はハに該当するものを除く。)。但し、その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む。)の重量をこえないものに限る。
・清酒に清酒かすを加えて、こしたもの

参考:国税庁「酒税法における「清酒」の定義」

これらの条件を満たしていれば、海外で造られたお酒も清酒に該当します。一方で、「日本酒」という呼び名は、国産米を使用し国内で醸造されたお酒のみに用いられるものです。海外産の米を使っていたり、海外で醸造し輸入されたりしたお酒は、日本酒を名乗ることができません。

近年は、フランスやアメリカなどでも清酒が製造されています。地酒の世界は日本国内だけでなく、海外にも広がっているといえるでしょう。

フランス初の酒蔵「昇涙酒造」の『浪』
フランス初の酒蔵「昇涙酒造」の『浪』

1-3.地酒ブームが生まれた理由

地酒という言葉が全国に広まったのは、昭和後期の地酒ブームがきっかけです。地酒ブーム誕生の背景には、昭和初期から続いた「級別制度」の廃止がありました。

級別制度とは、「特級」「一級」「二級」のように日本酒をランク分けした制度のことです。品質ではなく、酒税額の違いを基準としていた級別制度は、消費者に「高額なお酒ほど美味しい」という誤った認識を与えていました。

長年続いた級別制度が廃止されると、大手が造る特級酒から、地方の小さな蔵が造る地酒へと消費者の注目が移っていきます。なかでも、新潟のスッキリとした味わいのお酒は人気を呼び、淡麗辛口ブームとともに地酒ブームを世に生み出しました。

2.地域別!地酒の特徴とおすすめ日本酒

ここからは、北は北海道、南は沖縄まで全国の地酒の特徴をご紹介します。米と米麹、水というシンプルな原料から生まれる日本酒は、土地の個性が現れやすいお酒です。「どんなお酒を飲もうかな」と迷ったら、おすすめ銘柄もぜひ参考にしてください。

2-1.北海道

豊かな自然と広大な土地に恵まれた北海道。寒さ厳しい北の地では『吟風(ぎんぷう)』や『彗星』、『きたしずく』といった北海道生まれの酒米を使った酒造りがおこなわれています。

道内に3つの蔵を持つ「上川大雪(かみかわたいせつ)」が造るのは、北海道弁でついつい飲んでしまうことを意味する“飲まさる酒”。蔵のひとつ五稜乃蔵は、帯広畜産大学のキャンパス内に位置します。

ほかにも、日本最北端の酒蔵「国稀(くにまれ)」、公設民営型の酒蔵「三千櫻(みちざくら)」、旭川の名水を仕込み水にする「男山(おとこやま)」とどれも人気の蔵ばかり。地酒は後味がスッキリとしたタイプが多く、食の宝庫といわれる北海道の味覚と良く合います。

上川大雪 純米吟醸 吟風
上川大雪 純米吟醸 吟風

(出典元:IMADEYA ONLINE STORE

2-2.東北

青森の「田酒(でんしゅ)」に岩手の「赤武(あかぶ)」、秋田の「新政(あらまさ)」と日本酒ファンに支持される銘柄が勢揃いする東北地方。なかでも福島は、9年連続『全国新酒鑑評会』での金賞受賞数日本一を誇ります(令和4年時点)。

また、山形にはプレミア日本酒「十四代(じゅうよんだい)」を造る高木酒造も存在します。「浦霞(うらかすみ)」で知られる佐浦酒造は、1724年(享保9年)に宮城県に創業した老舗蔵です。

フルーティーな香りのお酒、深い旨味のあるお酒など味わいも多種多様。どれもクオリティが高く、いろいろな銘柄を試しながら自分の好みのお酒を見つけたい方におすすめです。

新政
秋田「新政酒造」の『No.6』『Colors』

2-3.中部

日本海に面する新潟から太平洋に面する愛知まで、エリアが広い中部地方にはさまざまな地酒が集まります。

新潟を代表するのは、かつて淡麗辛口ブームを巻き起こした地酒の数々です。「久保田(くぼた)」や「八海山(はっかいさん)」、「越乃寒梅(こしのかんばい)」など、旨味がありつつスッキリとした味わいのお酒が並びます。

富山の「勝駒(かちこま)」や石川の「加賀鳶(かがとび)」は、海の幸にベストマッチのキレ味鋭い後口が魅力。福井の地酒「黒龍(こくりゅう)」は、香り高い大吟醸の代表銘柄です。

また、アルプスの山々が連なる長野は酒造りが盛んで約80を超える蔵が存在します。愛知の「醸し人九平次(かもしびとくへいじ)」は、日本から世界へ羽ばたく地酒の代表種です。エレガントな味わいは海外でも評価が高く、パリのレストランで採用されています。

日本酒久保田
新潟「朝日酒造」の『久保田 翠寿』『久保田 雪峰』

2-4.関東

関東地方にも人気銘柄が勢揃い。埼玉の「花陽浴(はなあび)」、神奈川の「いづみ橋(いづみばし)」と、日本酒ファンから愛される地酒が並びます。

なかでも栃木の「鳳凰美田(ほうおうびでん)」は、フルーツを思わせる華やかな香りが魅力的。ほんのり甘く清らかな味わいで、日本酒を飲み慣れない方にもおすすめの地酒です。

栃木「小林酒造」の『鳳凰美田』
栃木「小林酒造」の『鳳凰美田』

2-5.近畿

伏見のある京都をはじめ、奈良や和歌山など2府5県を含む近畿地方。自然豊かな地域も多く、近年は新たな人気銘柄が続々と登場しています。

「紀土(きっど)」は和歌山の豊かな自然が育む地酒です。酒蔵は稲作が盛んな地域に建ち、清らかな井戸水が酒造りに使われています。

また、日本酒発祥の地ともいわれる奈良の「風の森(かぜのもり)」は、ほのかな発泡感と複雑味のある味わいが人気の地酒です。地元の米をなるべく削らず使った酒からは、自然の豊かさ、力強さを感じることができます。

奈良「油長酒造」の『風の森』
奈良「油長酒造」の『風の森』

2-6.中国

中国地方は日本海に面した山陰地方と、瀬戸内海に面した山陽地方にわかれます。冬の寒さが厳しい山陰地方の地酒は、燗酒にするとより美味しく味わえるのが特徴です。鳥取の「千代むすび(ちよむすび)」、島根の「十旭日(じゅうじあさひ)」など地酒の魅力を堪能できる銘柄が揃います。

広島県の西条は、日本有数の酒どころとして知られる地域です。銘酒のひとつ「白牡丹(はくぼたん)」を造る蔵は、300年以上の歴史を誇ります。

また、瀬戸内近くの酒蔵では、牡蠣に合うさまざまな地酒が造られています。富久長(ふくちょう)の「シェルラバーズ」もそのひとつです。シュワシュワッとした発泡感とキレのある酸味が牡蠣の旨味を引き立ててくれます。

広島「富久長」の『シェルラバーズ』
広島「富久長」の『シェルラバーズ』

2-7.四国

四国地方のなかでも、特にお酒好きが多い地域として知られるのが高知県です。観光スポット『ひろめ市場』には地元の屋台が集結し、明るいうちから地酒と料理を楽しめます。

「酔鯨(すいげい)」や「船中八策(せんちゅうはっさく)」など、高知の地酒はキリッとした辛口タイプが多いのが特徴です。瀬戸内の恵みがもたらす魚介類とあわせれば、スイスイと盃が進みます。

高知「司牡丹」の『船中八策』
高知「司牡丹」の『船中八策』

2-8.九州・沖縄

焼酎の名産地である九州でも、数多くの日本酒が製造されています。特に、稲作が盛んな北九州は米どころであり酒どころです。福岡には50以上の蔵が存在し、「庭のうぐいす」や「若波(わかなみ)」、「田中六十五(たなかろくじゅうご)」などの地酒が人気を博しています。

また、大分の地酒はスッキリした味わいとほんのりとした甘さが魅力です。さわやかな香りの「ちえびじん」は、和食だけでなくイタリアンにも良く合います。

沖縄の泰石(たいこく)酒造は、沖縄唯一の蔵であり、日本最南端の酒蔵。代表酒「黎明(れいめい)」は、ふくよかな旨味とキレの良さをあわせ持ち、沖縄のお土産にもおすすめです。

大分「中野酒造」の『ちえびじん』
大分「中野酒造」の『ちえびじん』

3.地酒をより楽しむためのポイント

ここまでご紹介したように、地酒にはその土地ならではの個性が現れます。より楽しみたいときは、土地の風土が感じられる地元の食材とあわせるのがおすすめです。また、実際に蔵へ足を運べば、地酒の魅力をより身近に感じることができます。

3-1.酒蔵に足を運んでみる

地酒に興味を持ったら、ぜひ実際に蔵へ足を運んでみてください。地酒が生まれる土地の風土をよりはっきりと感じられるはずです。蔵によっては試飲や販売スペースが設けられています。酒蔵の多い地域に足を運び、酒蔵めぐりを楽しむのもおすすめです。

また、蔵によっては見学を受け付けており、見上げるほど大きなタンクや、日本酒造りに使う道具を間近に眺めることができます。見学時は、蔵のホームページなどで見学の有無を確認してから出かけるのがおすすめです。

酒造り期間中であれば、蔵人たちが働く姿やもろみが発酵する様子を見学できます。蔵内には甘い香りが広がり、お酒好きにはたまらない体験となるでしょう。

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3-2.地酒と名産品のペアリングを楽しむ

日本酒は食事とあわせて楽しめるお酒です。自宅で地酒を味わうときは、ぜひ地酒が造られた土地の名産品を合わせてみてください。

秋田のお酒にはいぶりがっこ、広島のお酒には牡蠣など、料理とのペアリングを考えると日本酒選びがより楽しくなります。コクとキレを兼ね備えた北海道のお酒には、魚介類やチーズ、ラム肉のような旨味の強い食材もおすすめです。

燗酒で美味しい山陰のお酒は、カニ料理のベストパートナー。旨味と旨味の相乗効果がたまらないペアリングができあがりますよ。

まとめ

日本各地で造られる個性豊かな地酒。その土地の風土を感じられる地酒には、日本酒の魅力がたっぷりと詰まっています。

合わせる料理を工夫したり、実際に蔵に足を運んだりすればいつもの一杯もより美味しく感じられるはず。ぜひ各地を旅するように、さまざまな地酒を味わってみてくださいね。