1867 年(慶応3年)創業の山三酒造は、信州上田の真田家の家紋『真田六文銭』を酒名に冠した、飲み易くすっきりした味の地酒として愛されてきましたが、作り手の高齢化と設備の老朽化により、事実上の休蔵状態になっていました。
創業から150年以上の歴史を積み重ねてきた由緒ある酒蔵の歴史が途絶えてしまいかねない状況だったところ、地元・長野県佐久市出身である荻原氏が、150年超の歴史を築いてきた山三酒造に感銘を受け、ゼロからの再スタートともいえる思い切った事業の再構築を決意。
今回は歴史ある山三酒造の名をそのままに事業を継承した荻原氏に、山三酒造が再始動するまでの軌跡に迫っていきます。
目次
1.伝統を引き継ぎ日本酒の世界へ
話を伺ったのは山三酒造の事業継承をした現代表、荻原慎司氏。
荻原氏はもともと日本酒関係の仕事に携わっていたわけではなく、全くの別業界から事業継承をし現在は山三酒造の蔵元として、山三酒造の歴史と伝統を引き継いでいます。
「私は元々遊技場の販売事業を運営していましたが、他社と競い合う業界の構図に疑問を抱き、次第にもっと個性を活かし自由に売買ができるようなものを作って世界に売っていけるような仕事をしていきたいと思うようになりました。」
「長くできること」「世界に進出することができるもの」を軸に取り組める事業を探していた時、荻原氏に声をかけたのが地元である長野県佐久市に蔵を構える戸塚酒造でした。
「私は長野県佐久市出身で、地元には酒蔵さんがたくさんあります。その中の一つ、戸塚酒造さんとは元々とても仲良くさせていただいていました。ある時、その彼から作り手の高齢化と設備の老朽化により、事実上の休蔵状態になっている酒蔵があると聞きました。戸塚酒造の蔵元さんとは以前から私がものづくりに携わりたいという思いは話していたので、やってみないかというお話をいただいたのが事業継承に至ったきっかけになります。」
かくして、荻原氏は探していた2つの軸にも条件が合致し、150年超の歴史を築いてきた山三酒造の歴史と伝統を引き継ぎ、世界に出せる日本酒を造るため、ゼロからの再スタートともいえる思い切った事業の再構築を図ることを決意しました。
2.ゼロスタートから日本酒が造れるようになるまで
2-1.杜氏栗原氏との出会い
事業継承をすると決めてからまず荻原氏が取り組んだのが、日本酒の造り方に関する勉強と実践でした。
「日本酒に関する知識というのはほぼ0からのスタートでしたので、戸塚酒造さんのところで1シーズン朝から晩まで日本酒造りについて勉強をさせていただきました。造りを経験してからは、山三酒造内の片付けに着手しました。ただ、このときに何がいらない機材で逆に何が必要な機材かわからないという問題に直面したのです。その時『これは先に杜氏を探すしかない』と思い、杜氏探しを始めました。」
杜氏探しは様々な方からのご紹介もありましたが、なかなか理想とする杜氏とは出会えずに時間が過ぎていきました。そこで思い切って杜氏探しの求人を出しました。
「求人を出してからは全国から何人か応募をいただきました。その中の1人が現在山三酒造にて杜氏をしている栗原です。栗原は京都のハクレイ酒造で7年間酒造りに携わっており、2019年からは製造主任を務めていました。」
栗原氏自身もいつか杜氏として酒造りをしていきたいという思いがあり、常に杜氏募集の情報を探していたところ、山三酒造の求人を見つけ、応募しました。山三酒造を訪ねて荻原氏と話をする中でその経験や熱意が買われ、山三酒造の杜氏として迎え入れられました。
2-2.理想の日本酒を造るための環境作り
杜氏栗原氏を迎え入れて徐々に山三酒造内の設備を整えていきますが、この環境作りが事業継承をしてから最も大変だったと荻原氏は振り返ります。
「栗原を迎え入れてから、どういう酒蔵になっていきたいか、どういう日本酒を作っていきたいかを話し合いました。私は一部既存の設備も使えるものもあるかと想定したのですが、栗原と話をしていく中で、元々の山三の設備だと酒質を上げていくのは難しいということで、設備は一新しました。」
「建物の老朽化(雨漏りや壁が崩れたりしていた)や設備の一新によって使わなくなった機械が山のようにあったので、建物の修繕と使わない機械を片付けてお酒が造れる環境にもっていくまでが本当に大変でした。」
栗原氏が主導する新たな山三酒造の日本酒造りでは、酒造工程の大切さを順に表した「一麹、二酛、三造り」という格言を実現するために、醸造方法と設備が実現されました。
最も重要な「一麹」の麹造りでは、より高品質にするために麹室を一新。 機械式から全量を箱麹製法に切り替え、自然通風による製麹法へ移行しています。「二酛、三造り」についても、微細な変化にまで目が届くように、これまでの大型タンクでの大量生産からサーマルタンクでの小さな仕込みに完全移行しました。
さらに、冷蔵設備の導入により、衛生面の向上と温度管理された低温環境下で製造することで、日本酒のフレッシュさが維持できるようになっています。
こうして山三酒造再始動への準備はいよいよ整いました。
3.山三酒造が醸す日本酒のこだわり
3-1.地域性へのこだわり
2023年2月に再始動をしてから1期目として始まった日本酒造り。荻原氏に山三酒造が醸す日本酒のこだわりを聞きました。
「1つは地域性へのこだわりです。上田市は、美しい山々に囲まれ、清らかな水で高品質な日本酒を生産するための基盤があります。また、縁あって地元の八重原地区で情熱を持って酒米を作る米農家の方との出逢いがありました。そんな恵まれた環境と原料で地域性を活かした独自の味わいを持った日本酒を生産していきたいと思っています。」
「ただ、まだ1期目ということもあって山三酒造としての個性は模索している最中です。技術の向上や知見を広めるために原料の選定、醸造プロセスなど、品質に関するあらゆる要素を徹底的に追求し、革新的な日本酒造りにチャレンジしていきたいです。」
3-2.ラベルへのこだわり
地域性へのこだわりの他に山三酒造が造る日本酒にはラベルへのこだわりも見られました。
例えば「山三 山霞」には「うすにごり/無濾過生原酒/山恵錦/磨き五割/獨鈷山系伏流水/アルプス酵母/一五度」と細かに情報が記載されています。
「例えば純米酒といっても作り方は様々です。それぞれちゃんとした違いやこだわりがあるのに、それらが全て同じ『純米酒』として一括りにされてしまうのが少しもったいないなと感じていました。なので、山三の日本酒は手にとっていただけるお客様にこだわりをわかりやすくお伝えすることができるよう、ラベルにも細かく情報を出しています。」
4.山三酒造のこれから
4-1.少しでも地元に恩返しができたら
設備の一新から多くのこだわりによって生まれたプロダクトは「真田六文銭 初陣」「山三 初雪」「山三 山霞」「山三 紫翠」の4本。
休眠していた蔵が復活を果たし、地元のイベントに出るときなどは多くの喜びの声をいただくといいます。
「市長さんをはじめ、商工会や地元の方には非常によくしていただいています。地域に貢献できるようなイベントには積極的に参加させていただき、少しでも地元のみなさんに恩返しができたらいいなと思っています。」
4-2.多くの収穫を得て、2期目へ
最後に2期目に向けて、荻原氏に今後の山三酒造の目標を聞きました。
「技術だったりとか伝統的な地域性だったり、色々なものを大事にしながら最高品質のものを追求して造っていくという点を最も重要視しています。また、今年は1期目として修正点も含め多くの収穫を得ることができました。それらの経験を活かしながら来期は山三酒造の代表銘柄になり得るお酒をまずしっかり造っていくことが重要だと思っています。」
2023年2月から再始動をした山三酒造。日本酒ラボでも4本を試飲させていただいたのですが、どれも1期目とは思えない完成度を誇るおいしいお酒でした。山三酒造の4本については下記の記事にてレビューしているので、ぜひそちらもご確認ください。
https://sake-5.jp/introduction-of-yamazan-sake-brewery
事業継承によって、伝統を引き継ぎながらも新しく生まれ変わった山三酒造。来期はどんな日本酒を造るのか、これからが楽しみな酒蔵として目が離せません。
5.プロダクト紹介
5-1.山三 紫翠(しすい)
果実のような爽やかな香りと、大自然から溢れる湧き水のような澄み切った味わいが特徴の純米大吟醸。青々とした美しい山に抱かれ、瑞々しい生命力に満ちた信州上田の「紫幹翠葉」な情景が広がる。
5-2.山三 山霞(やまかすみ)
信州上田を包む山々にかかる山霞をイメージした、うすにごりの無濾過生原酒。「山恵錦」が持つ豊かな米の味わいと果実感のあるジューシーさとやさしい酸味が、わずかな炭酸ガスとともにバランス良くふくらみ、やさしくはかない余韻の後味。山霞の後には生命力に溢れた澄んだ空気と蒼天が広がる。
5-3.山三 初雪(はつゆき)
初雪をイメージした、うすにごりの無濾過生原酒。「ひとごこち」が持つ洗練された米の味わいと果実感のある香り、酸味、甘みや苦味などの複雑な味が調和し、さらりとほどける余韻で飲み飽きしない定番の純米酒。はらはらと初雪が風に舞い、人肌に触れしんと消えていく。
5-4.真田六文銭 初陣(さなだろくもんせん ういじん)
信州上田、真田家の家紋として有名な真田六文銭を酒名に冠し、純米醸造で飲み易いすっきりした味の地酒として愛されてきた。その精神を受け継ぎながら、素材から造りまですべてを見直し、新たな山三酒造として醸す伝承と研鑚の純米酒。穏やかで品の良い香りとクリアな味わい、キレが良いすっきりした無濾過生原酒の食中酒。
【会社概要】
〒386-0412 長野県上田市御嶽堂687-1
TEL:0268-42-2260
FAX:0268-42-3884
E-mail:info@yamasan-sake.jp
ホームページ: https://yamasan-sake.jp/