「杜氏(とうじ)」とは、日本酒造りの最高責任者のことです。杜氏に蔵元、蔵人など…それぞれどう違うの?と疑問に感じたことはないでしょうか。
今回は、杜氏の由来や歴史、仕事内容について詳しく解説!日本三大杜氏と呼ばれる杜氏集団や、女性杜氏に関する情報もお伝えします。
目次
1.杜氏とは?名前の由来や歴史
「杜氏(とうじ)」とは、蔵に雇われ、酒造りの一切を取り仕切る責任者のことです。スポーツに例えるなら、杜氏はいわばチームの監督。そのため、杜氏は各蔵に1人しか存在しません。杜氏のほかに酒造りに関わる人たちは「蔵人(くらびと)」と呼ばれます。
そもそも、なぜ杜氏という存在が生まれたのでしょうか?その理由を知るために、まずは名前の由来や歴史について紐解いていきましょう。
1-1.杜氏の由来は「刀自(とじ)」
杜氏の名の由来は、お酒を造る女性をあらわす「刀自(とじ)」だといわれています。古来、宮中で盛んに造られていたお酒は、神様へ捧げるものでした。酒造りの役割は女性たちが担い、それらを束ねる女性を刀自と呼んでいたのです。
今のように、酒造りが男性中心の仕事へと変化したのは、江戸時代に入ってからのこと。日本酒は、神様に捧げるものから庶民でたしなむものへと変化を遂げていました。
やがて幕府からのお触れをきっかけに、大きな道具を使用し、冬場に大量にお酒を仕込む必要性が生まれます。
必然的に、酒造りは力仕事へとシフトし、働く人々も男性が中心に。刀自の名はその響きを残したまま、「杜氏」の字があてられるようになりました。
1-2.約300年前から続く杜氏の歴史
杜氏の歴史は、江戸時代から現在まで約300年以上続いています。その始まりとなったのが、米不足を懸念する幕府が出した「お酒を造るのは冬季のみ」というお触れでした。
このお触れをきっかけに、日本酒は年中造るものから冬に大量に造るものへと変化していきます。
冬になり、酒蔵の繁忙期に活躍したのが、手が空いている農民たちです。冬になると、酒蔵へと出稼ぎに出かける農民と蔵人たちが集結し、各地で酒造りの集団ができあがりました。
この集団を束ねたのが、ほかでもない「杜氏」と呼ばれる存在です。現在も、各地ではさまざまな杜氏集団が活躍しています。
1-3.日本三大杜氏とは
前述したような杜氏集団は、全国に30近く存在するといわれています。なかでも、代表的なものが以下の3つのグループです。それぞれが高度な技術を持つことから「日本三大杜氏」と呼ばれています。
南部杜氏(岩手県)
杜氏の数は全国最多。かつて南部と呼ばれた岩手県花巻市を拠点とする杜氏集団です。現在も300名近くの杜氏が活躍しています。
越後杜氏(新潟県)
米どころであり酒どころ、新潟県の酒造りを支える杜氏集団です。「八海山(はっかいさん)」や「久保田(くぼた)」など、数々の銘酒を手がける杜氏たちが名を連ねます。
丹波杜氏(兵庫県)
灘地方の酒造りを担ってきた杜氏集団です。その名が世に広まった理由は、丹波人特有の誠実さや勤勉さにあったといわれています。3つの集団のなかではもっとも規模が小さいものの、現在も灘の名水で多くの銘酒が造られています。
2.杜氏の仕事内容と蔵元との違い
杜氏の仕事内容は多岐にわたります。日本酒造りは、繊細な温度管理や日々の分析が必要。杜氏はすべての工程に目を配らなくてはいけません。
その理由は、酒蔵の経営者である「蔵元」に雇われているという点にもあるといえます。蔵元は、スポーツに例えればチームを運営するオーナーのようなもの。最高責任者の杜氏は、蔵元の考えに沿って酒造りをおこないます。
また、蔵人たちの人員配置なども杜氏の大切な仕事のひとつ。ときには書類作成も手がけるなど、杜氏は実に多くの仕事をこなす大役なのです。
ちなみに、杜氏のもとで働く蔵人たちは、受け持つ仕事内容によって以下のように呼ばれています。
- 頭(かしら)…杜氏の補佐役
- 代師・麹師・麹屋(だいし・こうじし・こうじや)…麹づくりの担当者
- 釜屋(かまや)…米を蒸す工程の担当者
- 酛師・酛屋(もとし・もとや)…酒母づくりの担当者
- 船頭(せんどう)…お酒を搾る工程の担当者
3.杜氏になるには?求められる資格やスキル
「杜氏になりたい!」そう思ったときに求められるのは、お酒に関する資格と優れたスキルです。資格は必須ではないものの、実務に大きく役立ちます。代表的なものとして挙げられるのが「酒造技能士」です。
酒造技能士とは、日本酒製造に関する知識とスキルを持つことを認める国家資格のこと。1級を取得するには、7年以上、または2級合格後2年以上の実務経験が必要です。
また、杜氏には酒造りにおける優れたスキルも求められます。繊細な酒造工程をコントロールする力はもちろん、蔵人たちをまとめるコミュニケーション能力も必要となってくるでしょう。
4.オーナー杜氏や女性杜氏、外国人杜氏の活躍も
長年の歴史を誇る杜氏の世界には、時代と共に変化が生まれています。そのなかのひとつが「オーナー杜氏」です。
オーナー杜氏とは、杜氏を雇うことなく、蔵元自らが杜氏となり酒造りをおこなう仕組みのこと。商品開発からプロモーションまで自らが手がけることで、唯一無二の個性を生み出す酒蔵も数多くみられます。
また、実務経験の長さにとらわれず、若い蔵人を杜氏に採用するケースも少なくありません。
2018年(平成30年)、「伯楽星(はくらくせい)」で知られる新澤醸造店(にいざわじょうぞうてん)では、入社3年目となる当時22歳の女性社員が杜氏に就任しました。
ほかにも「天美(てんび)」を造る長州酒造(ちょうしゅうしゅぞう)、「信州亀齢(きれい)」で知られる岡崎酒造など、各地で女性杜氏が活躍。
瀬戸内海で「富久長(ふくちょう)」を醸す今田酒造本店の今田美穂氏は、2020年、英国BBCが選ぶ世界に影響を与えた『100人の女性』に、日本人として唯一選出されています。
さらに、京都の玉川酒造では、国内初の外国人杜氏フィリップ・ハーパー氏が活躍。
多様性を見せる現代社会のように、各蔵でも年齢、性別、国籍を越えた酒造りがおこなわれています。
まとめ
日本酒造りの要ともいえる存在、杜氏。江戸幕府のお触れから始まった杜氏の歴史は、日本酒造りの歴史そのものといえるかもしれません。
今夜は美味しい日本酒に口をつけるその前に、ちょっとひと呼吸。杜氏をはじめとする蔵人たちや蔵元に、想いをはせてみてはいかがでしょうか。