お酒でよくある疑問なのが、日本酒と清酒の違いについてです。言葉の雰囲気は似ていますが、それぞれに違いはあるのでしょうか。お酒に詳しい人も、日本酒と清酒の違いについてはよく知らないことが多いです。
今回は日本酒と清酒の違いが気になっている人のために、それぞれの定義について解説していきます。
目次
1.日本酒と清酒の違いとは?
日本酒と清酒の違いは、法律上の定義にあります。清酒は酒造法で定義され、原料や製法も定められているのが特徴です。
清酒の通称でもある日本酒は、地理的表示制度で基準が設けられています。まずは、それぞれの具体的な違いをみていきましょう。
1-1.清酒は酒税法上の呼び名
「清酒」は、酒税法上の呼び名です。酒税法第3条第7号では、清酒は以下の要件を満たすアルコール分22度未満のお酒と定義されています。
イ 米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの
ロ 米、水及び清酒かす、米こうじその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの(イ又はハに該当するものを除く。)。但し、その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む。)の重量をこえないものに限る。
ハ 清酒に清酒かすを加えて、こしたもの
(引用:国税庁「酒税法における「清酒」の定義」)
ここで注目したいのが、清酒の原料と製法、アルコール度数です。酒税法を要約すると、清酒は以下のようなお酒といえます。
原料 | 米、米こうじ |
製法 | もろみをこしたもの |
アルコール度数 | 22度未満 |
原料の米こうじとは、蒸した米に麹菌を繁殖させたものです。「ロ」の“法令で定める物品”には醸造アルコールや糖類などが挙げられますが、使用量には制限があります。
また、清酒は白い液体状の醪(もろみ)を搾る上槽(じょうそう)と呼ばれる工程を経てできあがります。これが、製法の「こす」にあたる作業です。
こしていないお酒は「どぶろく」と呼ばれ、酒税法では「その他の醸造酒」や「濁酒」に分類されます。
にごり酒、どぶろくは清酒?
前述したように、こす作業をしないどぶろくは清酒に該当しないお酒です。一方で、白く濁った「にごり酒」は酒税法で清酒に定義されます。
にごり酒は、目の粗い布で搾ったお酒です。滓(おり)と呼ばれる米や麹の固形物が残っているため、透明のお酒にはないコクや旨味を楽しめます。
1-2.日本酒と「地理的表示」の関係
日本酒には酒税法の定義はなく、辞書などでは以下のように解説されています。
日本在来の醸造法によって造った酒。特に、清酒をいう。
[補説] 平成27年(2015)、国レベルの地理的表示として指定。原料の米・米麹(こめこうじ)に日本国内産米のみを使用し、日本国内で製造された清酒だけが「日本酒」(英語ではJapanese Sake)を独占的に名乗れる。
(引用:Weblio辞書「日本酒」)
公的機関や各メーカーの広報などでも、清酒と日本酒は同じ意味で用いられるのが一般的です。清酒は酒税法上の呼び名、日本酒は一般的な呼び名といえるでしょう。
一方で、日本酒は2015年(平成27年)に「地理的表示(GI)」に指定されています。地理的表示とは、産地名を適切に使用することで地域ブランドの確立を促す制度のことです。
地理的表示制度では、日本酒は「日本国産の米と米こうじのみを原料に、日本国内で製造された清酒」と定められています。つまり、外国産の米を使用したり、海外で生産されたりしたお酒は、地理的表示の制度上「日本酒」を名乗ることはできません。
こうした基準は、フランスのワインなどにも設けられています。フランスのボルドー地方で造られたブドウのみを原料に、さまざまな条件をクリアした「ボルドー」がその一例です。
地理的表示を設ければ、日本酒の品質と信頼性を海外にアピールできます。日本の国酒「日本酒」のブランド力をさらに高める基準といえるでしょう。
2.清酒の種類「特定名称酒」8種
酒税法上の清酒は、原料や製法によって8種類に分類されます。「特定名称酒(とくていめいしょうしゅ)」と呼ばれる、1990年(平成2年)から運用されている分類です。
特定名称 | 使用原料 | 精米歩合 |
本醸造酒 | 米、米こうじ、醸造アルコール | 70%以下 |
特別本醸造酒 | 米、米こうじ、醸造アルコール | 60%以下または特別な製造方法(要説明表示) |
吟醸酒 | 米、米こうじ、醸造アルコール | 60%以下 |
大吟醸酒 | 米、米こうじ、醸造アルコール | 50%以下 |
純米酒 | 米、米こうじ | ー |
特別純米酒 | 米、米こうじ | 60%以下または特別な製造方法(要説明表示) |
純米吟醸酒 | 米、米こうじ | 60%以下 |
純米大吟醸酒 | 米、米こうじ | 50%以下 |
特定名称酒の基準には、こうじ米を15%以上使用していることや固有の香りがあること、色が良いことなども規定されています。
原料にある醸造アルコールは、糖蜜やトウモロコシなどを原料にした純度の高いアルコールのことです。精米歩合(せいまいぶあい)の数値は、外側を削ったあとに残る米粒の割合を示しています。
「純米」と付く清酒は、米と米麹のみを原料としているのが特徴です。「大」の字を含む清酒は、精米歩合50%以下とより小さく削った米を使用しているのがわかります。
より細かな違いや特徴などは、こちらもぜひ参考にしてください。
3.タイプ別、日本酒の美味しい飲み方
特定名称酒は、香りや味わいで大きく3タイプにわかれます。一概にはいえないものの、タイプごとの特徴は以下のとおりです。
本醸造酒 | 香りは穏やかでスッキリとした味わい |
吟醸酒 | フルーティーな香りで後口スッキリ |
純米酒 | 米と米麹の豊かな香りとまろやかなコク |
香りは穏やかで、スッキリとした味わいの本醸造酒は食中酒に適したお酒です。冷酒から常温、燗酒まで幅広い温度帯で楽しめます。
フルーティーな香りの吟醸酒は、ほどよく冷やしていただくのがおすすめです。冷やしすぎたり温めすぎたりすると、せっかくの香りが飛んでしまいます。香りを包み込むワイングラスに注いでも美味しいお酒です。
純米酒の芳醇な味わいは、醤油や出汁を使った日本料理にマッチします。温めるとよりまろやかな口当たりに変化し、燗酒好きにもおすすめのタイプです。
これらをベースにさまざまな飲み方にチャレンジすれば、自分好みの日本酒、飲み方に出会うことができます。
4.日本から世界へ羽ばたく清酒の歴史
特別名称酒が登場する以前、清酒は「級別制度」で分類されていました。
級別制度は、1943年(昭和18年)に導入された制度です。清酒は「一級」から「四級」の4段階に分類され、それぞれに異なる庫出税(くらだしぜい)が課せられました。
庫出税とは、お酒を出荷する際に課せられる税金のことです。当時は太平洋戦争で戦況が悪化し、戦費調達のためさまざまな増税が課せられる時代でした。
太平洋戦争が終わると、清酒は「特級」「一級」「二級」の3種に分類されます。高度成長期に入ると清酒の需要は急増し、1973年(昭和48年)には過去最高の課税移出数量を記録しました。
清酒に関する酒税法が転換期を迎えたのは、時代が平成に移り変わるころです。
1989年(平成元年)には特定名称酒の基準が設けられ、1992年(平成4年)4月1日をもって級別制度は完全に廃止されます。
酒税額の違いを基本とした級別制度の廃止により、消費者は「特級」や「一級」といった名称に縛られない日本酒の美味しさに着目しはじめます。大手酒造メーカーが手がける一級酒ではなく、地方の小さな蔵が造る「地酒」が人気を集め始めたのもこの時期です。
2015年(平成27年)には地理的表示にも指定されるなど、清酒すなわち日本酒は、海外でも広く親しまれるお酒へと進化し続けています。
まとめ
清酒が酒税法で定義された呼び名であるのに対し、日本酒は明確な定義はなく古くから日本国内で親しまれてきた呼び名です。近年は地理的表示に指定され、日本の酒としてのブランド力はさらなる高まりをみせています。
歴史や種類の違いを知れば、日本酒がもっと美味しく楽しいものへと変化します。日本酒を手にとったときは、ぜひそれぞれの背景を思い出してみてください。