日本酒にビール、焼酎にワイン、ウイスキー…。世の中に存在するお酒の数々は、製造方法によって「醸造酒」や「蒸留酒」、「混成酒」などに分類されます。日本酒は、米と米こうじから造られる醸造酒です。
今回は、醸造酒の日本酒資格「唎酒師」と、蒸留酒のウイスキー資格「ウイスキーエキスパート」を持つ筆者が、醸造酒と蒸留酒の違い、種類について紹介します。
日本酒と焼酎は製法が似ていたり、ウイスキーを造る酒蔵があったりと、知れば知るほど奥深いお酒の世界。早速その魅力について探っていきましょう。
目次
1.醸造酒と蒸留酒の違いとは?
醸造酒と蒸留酒の大きな違いは製造方法です。それぞれに果実やハーブ、甘味料などを加えたものは混成酒と呼ばれます。
醸造と蒸溜の違いにより、お酒のアルコール度数やカロリー、糖質には変化が生まれます。日本酒は、醸造酒にあたるお酒です。まずは、蒸留酒との違いについてみていきましょう。
1-1.「醸造」と「蒸留」作り方の違い
「醸造」とは、発酵の力を利用してアルコールや食品を製造することです。発酵とは、微生物の力で食材を変化させることを意味します。日本酒のほか、味噌や醤油といった日本古来の調味料も発酵を経て生まれる食品です。
日本酒の「醸造」では、米と米こうじなどの原料に、酵母や水などを加えてアルコール発酵をおこないます。発酵の力でアルコールが生成され、お米がお酒へ変化するというわけです。
アルコール発酵が進んだ液体は、「もろみ」と呼ばれます。日本酒造りのもろみは、白くどろどろとした状態です。わたしたちが口にする日本酒は、このもろみを搾って造られています。
一方、蒸留酒の製造工程では、アルコール分を含むもろみを搾るのではなく加熱していきます。液体を加熱すると、湯気が立ち上りますよね。この湯気を特殊な機械で集め、冷やしてもう一度液体へ戻す製法が「蒸留」です。
一般的に、醸造酒の製造には発酵のための樽やタンクが用いられます。蒸留酒の製造は、ウイスキーのポットスチルをはじめとする蒸留器が用いられるのが大きな特徴です。
1-2.アルコール度数の違い
醸造と蒸留では、蒸留のほうが高いアルコールが生成されます。自然の力を利用する醸造はアルコール発酵に限界がありますが、蒸留は、水とアルコールの“沸点”の違いを利用することで純度の高いアルコールを取り出せるからです。
水は100℃で沸騰し、アルコールは約78℃で沸騰します。つまり、アルコール分を含むもろみを熱すると、先にアルコール分が蒸発し始めるというわけです。
アルコール分を含む気体を冷やせば、より度数の高い液体ができあがります。蒸留方法によっては、40~90度まで度数を高めることが可能です。
一方、発酵という自然の力でアルコールを生成する醸造酒の度数は、さほど高くはなりません。そのなかでも日本酒のアルコール度数は高く、原酒(げんしゅ)と呼ばれるできたての状態で18度近くになります。
1-3.カロリーや糖質の違い
お酒の種類により異なるものの、カロリーは蒸留酒のほうが高くなりがちです。反面、糖質は醸造酒のほうが高くなります。
カロリー(100gあたり) | 糖質(100gあたり) | |
日本酒(醸造酒) | 103~109kcal | 3.6~4.9g |
ウイスキー(蒸留酒) | 237kcal | 0g |
参考:文部科学省「第2章 日本食品標準成分表」
ここでは、醸造酒の日本酒と、蒸留酒のウイスキーのカロリー、糖質を比較してみました。こうしてみると蒸留酒のカロリーがずいぶん高く感じられるのではないでしょうか。
ただし、蒸留酒はアルコール度数の高いお酒です。ロックやソーダ割りにすることも多く、一般的に1度に口にする量は醸造酒に比べ少なくなるでしょう。
1-4.酔いやすさに差はある?
人がお酒で「酔う」のは、肝臓で分解できなかったアルコールが血流に乗り脳まで到達し、脳を麻痺させるからといわれています。
肝臓がアルコールを分解する速度、アルコールが脳まで運ばれる速度は体質によりさまざまです。アルコール度数や酒量によっても、酔い方は変わってくるでしょう。
さまざまな成分を含む醸造酒は、アルコール分解に時間がかかるぶん、揮発したアルコールのみの蒸留酒に比べ酔いやすいといわれています。一方で、度数が高い蒸留酒は、飲むスピードや量によって酔いが回りやすいお酒です。
度数が低い醸造酒も、大量に飲めば悪酔いにつながってしまいます。美味しく楽しく酔うためには、醸造酒も蒸留酒も適量をゆっくりしたペースで飲むことが重要といえるでしょう。
2.醸造酒の種類と特徴
醸造酒の種類には、日本酒やビール、ワインなどが挙げられます。いずれも米や大麦、ブドウを原料にアルコール発酵で生まれるお酒です。
発酵には「単発酵」と「複発酵」の2つの仕組みがあります。ここでは、それぞれの仕組みの違いや、日本酒とビール、ワインとの関係性をみてきましょう。
2-1.日本酒
日本酒は、米と米こうじを原料に、アルコール発酵で生まれる醸造酒です。アルコール発酵には「糖類」が必要ですが、デンプンを主とする米には、糖類がほとんど含まれていません。
そのため、日本酒造りでは麹菌の力を借り、デンプンを糖類(ブドウ糖)へと変化させる「複発酵(糖化)」をおこないます。
日本酒造りの大きな特徴は、複発酵とアルコール発酵を1つのタンクで同時に進めることです。これは「並行複発酵」と呼ばれ、高いアルコール分が生成される手法になります。
ビールのアルコール度数が約5度、ワインの度数が約12度であるのに対し、アルコール発酵直後の日本酒の度数は18度前後です。古くから受け継がれる日本酒の並行複発酵は、世界でも珍しい醸造方法といわれています。
2-2.ビール
ビールは、大麦麦芽やホップなどから生まれる醸造酒です。米と同様に、大麦にもアルコール発酵に必要な糖類はほとんど含まれていません。そのため、ビール造りでは大麦を水に浸け発芽させ「複発酵」を進めていきます。
日本酒と違い、糖化が終わってからアルコール発酵させるビール造りの製法は「単行複発酵」と呼ばれます。
また、ビールはその後の製法で「ラガー」や「エール」などの種類に分類されます。材料や作り方でいくつにも表情を変えるビールのなかでも、近年注目を集めているのが「クラフトビール」です。
クラフトビールとは、小さな醸造所で作られる個性的なビールのこと。なかには、日本酒造りの工程で出る酒粕を利用したビールも誕生しています。
鳥取県の酒蔵「元帥(げんすい)酒造」と、地元のブリュワリー「BREW LAB KURAYOSHI (倉吉ビール株式会社)」とのコラボレーションビール『SAKEKASU BREW 酒粕ブリュー』もそのひとつ。ビールの弾ける泡のなかに、ホップ特有のコクと苦味、日本酒の旨味が広がります。
出典元:元帥酒造「SAKEKASU BREW 酒粕ブリュー」
2-3.ワイン
ワインはブドウから生まれる醸造酒です。米や麦と違い、ブドウには糖分が含まれています。
そのため、ワインは日本酒やビールのような「複発酵(糖化)」の必要がありません。ブドウ果汁に酵母を加えてアルコール発酵させる「単発酵」の後、樽やタンクで熟成させればワインができあがります。
製造工程がシンプルなぶん、ワインはブドウの品質が仕上がりを大きく左右します。良質なブドウを栽培するうえで重視されるのが、場所や気候、土壌の要素を総称した「テロワール」です。
近年は、日本酒造りでも米が育つテロワールを重視する蔵が多くみられます。また、ブドウ栽培から瓶詰めまで一貫しておこなうワイン生産者「ドメーヌ」のように、米栽培からすべてを手掛ける蔵も少なくありません。
「醸し人九平次(かもしびとくへいじ)」を造る愛知県の「萬乗醸造(ばんじょうじょうぞう)」は、フランスでのワイン造りも手がける酒蔵です。兵庫県と岡山県、フランスにそれぞれ田んぼを持ち、日本酒の原料である米を育てています。
出典元:醸し人九平次 KUHEIJI
また、山口県「永山本家酒造場」では、土地のテロワールを重視した『ドメーヌ貴』を製造。杜氏の永山ががワイナリーを訪れた経験から生まれたというお酒には、米が育つ土地や地域の人々への敬意が詰め込まれています。
3.蒸留酒の種類と特徴
蒸留酒の種類には、焼酎やウイスキー、ウォッカなどのアルコール度数の高いお酒が挙げられます。
日本酒と並び、焼酎も日本で古い歴史を持つお酒です。日本酒と焼酎両方を造る酒蔵や、酒粕を使った酒粕焼酎を造る蔵も存在します。
また、近年は国産ウイスキーの世界的な人気を受け、ウイスキー造りを始める蔵も誕生しています。カクテルベースに使用されることの多いウォッカをはじめ、それぞれの特徴についてみていきましょう。
3-1.焼酎
焼酎は、麦や芋、糖蜜などを主原料とする蒸留酒です。アルコール度数36度未満の「甲類焼酎」と、45度以下の「乙類焼酎」2種類に分類されます。
穀類や芋を主原料とする乙類焼酎の製造工程では、日本酒造りと同様に米こうじを造る「製麹(せいぎく)」がおこなわれます。麹(こうじ)の力で穀類や芋のデンプン質を糖に変え、もろみを加熱し、蒸留するというわけです。
日本酒を造る酒蔵のなかには、製麹技術を活かし焼酎を製造する蔵も存在します。銘酒『八海山』で知られる「八海醸造」もそのひとつです。酒粕を使った『よろしく千萬(せんまん)あるべし』をはじめ、日本酒の製造技術を取り入れた米焼酎が造られています。
参考:八海山「製品情報」
3-2.ウイスキー
ウイスキーは、大麦麦芽やトウモロコシなどを原料に生まれる蒸留酒です。大麦麦芽は「モルト」と呼ばれ、蒸留は2回または3回おこなわれます。
世界的なジャパニーズウイスキーの人気を受け、日本国内のウイスキー蒸留所の数は年々増加。2022年時点で稼働予定のものも含めると、その数は58カ所にのぼります。
近年は、日本酒を造る酒蔵がウイスキー製造をはじめるケースもみられます。また、日本酒『神鷹』で知られる「江井ヶ嶋酒造」は、ブーム以前からウイスキー造りを手がけている酒蔵です。
潮風を感じる敷地内には、歴史ある酒蔵とともに日本酒史料館やモダンな蒸留所が点在しています。
3-3.ウォッカ
ウォッカは、小麦やトウモロコシのような穀類や、ジャガイモなどの芋類から造られる蒸留酒です。主原料は焼酎と似ていますが、ウォッカ造りでは米麹は使用されません。代わりに材料を煮てデンプン質を糖化させます。
蒸留後に白樺などの活性炭でろ過をするウォッカは、クセのない香りや味わいが特徴です。また、ジンやラム、テキーラとともに「世界4大スピリッツ」に数えられます。
ウォッカはロシアのような北欧のほか、アメリカなどさまざまな地域で製造されているお酒です。近年は、サントリーの『HAKU(白)』、「高木酒造」の『奥飛騨』など、国産ウォッカも注目を集めています。
まとめ
自然のアルコール発酵の力で生まれる醸造酒と、アルコール発酵させた液体を加熱して造られる蒸留酒。どちらも人類の長い歴史のなかで生み出されてきたお酒です。
なかでも日本酒は、並行複発酵という世界でもめずらしい醸造方法で造られています。発酵中のもろみがプクプクと泡立つ様子は、お酒が呼吸をしているかのよう。酒蔵では、その成長を見守りながら発酵度合いを見極めていきます。
知れば知るほど楽しく、おもしろいお酒の世界。日本酒をはじめ、ビールにワイン、ウイスキーにウォッカとそれぞれのお酒を今日も美味しく楽しみましょう。