日本酒のラベルや、お店のメニュー表などで見かける「山廃(やまはい)」という文字。
「一体なんのこと?」「ほかのお酒とどう違うの?」と疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、山廃についてくわしく解説!山廃仕込みのお酒の特徴や、おすすめの楽しみ方もあわせて紹介します。
難しそうに思える日本酒も、用語の意味を知ればもっと楽しく、もっと美味しくなりますよ。
目次
1.山廃とは「生酛(きもと)」から派生した製法のこと
山廃とは、日本酒造りに欠かせない酒母(しゅぼ)の製造方法のひとつです。同じく、酒母の製造法である「生酛」から派生しました。
「きもと?しゅぼ?やっぱり難しそう…」と思わなくても大丈夫!
山廃を知るために、まずは日本酒の基本的な造り方について理解していきましょう。
1-1.酵母を育てる酒母造り
日本酒は、米と米麹をアルコール発酵させることで生まれるお酒です。
アルコール発酵を促すためには「酵母(こうぼ)」が必要となります。酒母は、酵母を育てるために造る液体です。
酒母の主な材料は、米、米麹、水、酵母、醸造用乳酸の5つ。
醸造用乳酸は、タンク内を酵母が育ちやすい環境にするために用いられます。
このように醸造用乳酸を添加する方法は、1910年(明治43年)に開発されたもの。開発前は、乳酸を添加するのではなく「自然に育てる手法」が用いられていました。
この、乳酸菌を自然に育てる手法こそが「生酛」「山廃」と呼ばれる製造方法のこと。乳酸を添加する乳酸添加法に対し、乳酸菌育成法とも呼ばれています。
ここがPOINT!
- 酒母の造り方は、乳酸菌を添加する方法(乳酸添加法)と育てる方法(乳酸菌育成法)の2つ。
- 「生酛」と「山廃」はどちらも乳酸菌育成法のこと。
1-2.「生酛」は米をすりつぶす「山卸し(やまおろし)」をおこなう
生酛の大きな特徴は、タンクに入れる前に米をすりつぶすことです。
蒸した米と麹に水を加え、櫂(かい)と呼ばれる木の棒で米をすりつぶす作業は「山卸し」や「酛摺り(もとすり)」とも呼ばれています。
山卸しの主な目的は、米を溶けやすい状態にすること。特に、江戸時代から明治時代にかけての米は硬く、溶けるまでに微生物が繁殖するリスクがあるため、山卸しは欠かすことのできない作業でした。
伝統の生酛造りは、山廃の誕生や、乳酸菌添加法の開発により一時は姿を消しかけます。しかし、昭和後期から平成にかけ生酛造りに着目する酒蔵が増加。
日本酒全体の製造数と比較するとわずかなものの、近年は「生酛」とラベルに書かれた銘柄が市場に姿を見せています。
1-3.「山卸し」をしない(廃止)から「山廃」
山廃は、生酛と同様に乳酸菌を育てながら酒母を作る製法です。しかし、山廃は生酛のように、米をすりつぶす「山卸し」をおこないません。
つまり「山卸をしない=廃止した」から「山廃」というわけです。
山廃では、タンク内で麹を水に浸ける「水麹」と呼ばれる手法が用いられます。他の微生物の働きが関係するため、綿密な温度管理が必要となるなど、生酛同様に手間と時間、そして高度な技術が求められる製法です。
2.山廃が誕生した背景
日本酒を仕込むのは冬の寒い時期。1日のスケジュールに合わせ、まだ暗いうちからおこなう山卸しは蔵人にとって重労働でした。
明治時代に入ると、国の研究機関「国立醸造試験所」がさまざまな検証を開始。軟らかい酒米が開発されたことや、精米技術が進歩したこと、水麹の手法などを理由に、山卸しの必要性が薄れたことを発表します。
これにより、多くの蔵では山卸しを廃止。「山卸廃止酛仕込み」、略して「山廃酛」と呼ばれる手法を採用するようになりました。
本来は酒蔵の専門用語だった山廃は、商品名として採用されたことをきっかけに、現在は一般消費者にもその名が知られています。
3.山廃仕込みの味わいの特徴
山廃仕込みの日本酒は、しっかりとコクのある濃醇な味わいに仕上がります。それでいて、香りは軽く深みのある味わいが特徴です。
ライトな香りと濃醇な旨味。繊細かつ奥深い味わい。と、一見対照的に思える要素を兼ね備えていることが、山廃の大きな魅力といえるでしょう。
4.山廃仕込みのおすすめの楽しみ方
山廃仕込みの日本酒は、冷やでも燗でも楽しめるお酒です。温めても香りやコクが飛ぶことなく、より奥深い味わいを楽しめます。塩辛やスルメといった定番のおつまみを片手に、ゆっくり楽しみたいお酒といえるでしょう。
料理とあわせたいときは、脂の乗ったサンマやきのこ、ジビエなど旨味の強い食材とのペアリングがおすすめ。ちょっと意外なところでは、チーズとあわせても美味しく味わえます。
鶏の照り焼きや、少し濃い目の味付けの煮物などとも好相性。ぜひ、山廃のふくよかな旨味と料理とのマリアージュを堪能してみてください。
5.まとめ
山廃仕込みは、日本酒造りの原型ともいえる製法です。古くは江戸時代から続く生酛をさらに進化させ、繊細かつ奥深い味わいを生み出しています。
古くて新しい製法として、注目の高まりを見せる山廃仕込み。酒販店や飲食店で見つけたら、ぜひ手に取って楽しんでみてくださいね。
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