広島県福山市鞆の浦の名産「保命酒(ほうめいしゅ)」は、みりんに生薬を漬け込んだお酒です。しっかりと甘く独特の香りを持ち、現在は鞆の浦の4店のみで製造販売されています。
今回は、保命酒の特徴や効能、歴史などをご紹介します。おいしい飲み方など、瀬戸内が生んだお酒の魅力を探っていきましょう!
目次
1.鞆の浦の「保命酒」とは?味の特徴や効能
「保命酒(ほうめいしゅ)」は、瀬戸内海のほぼ中央に位置する鞆の浦(とものうら)の名産品です。およそ16種類の生薬を含み、“瀬戸内の養命酒”ともいわれています。長い歴史を持つ一方で、現在は鞆の浦の4店舗のみでしか製造販売されていません。
もち米で造られる保命酒は甘く、生薬由来のフレーバーを持ちます。まずは、その特徴や造り方、気になる効能について紹介していきますね。
1-1.保命酒の味の特徴
保命酒は、甘さと生薬由来の香りが特徴的なお酒です。強い甘みがあるものの、砂糖や人工甘味料などは使用されていません。すべてが原料のもち米が生み出す自然な甘さです。
もち米と米麹、焼酎で造られる保命酒は「清酒」ではなく「リキュール」に分類されます。そのまま味わうのはもちろん、ロックやソーダ割り、お湯割りなどで楽しめることも特徴です。
1-2.ベースは「みりん」。保命酒の造り方
もち米と米麹、アルコール分40%の焼酎を原料とする保命酒は、途中まで「みりん」と同じ製法で造られます。
蒸したもち米と米麹、焼酎、醸造用アルコールなどをタンクに入れ発酵させると、白い醪(もろみ)ができあがります。これを搾ったものがみりんです。
保命酒造りでは、さらに生薬を漬けこんでいきます。もち米に米麹、焼酎の3種の原料に13種の生薬を漬け込むことから、かつては「十六味地黄保命酒(十六味保命酒)」ともいわれていました。
近年は、高麗人参や桂皮など16種の生薬を漬け込むのが主流です。細かな製造法は店舗によって異なり、それぞれに甘みや香りの個性が引き出されています。
1-3保命酒の効能
さまざまな生薬を漬け込んだ保命酒は、古くから「薬草酒」として重宝されてきました。
薬草の成分がじっくりとしみ出した保命酒は、冷え性や夏バテなどに効果的だといわれています。アルコールにより、薬用成分が早く体内に吸収されることも特徴です。
お湯割りにすれば、寒い冬でも体が芯から温まります。暑い夏には冷たく冷やした保命酒もおすすめです。
2.江戸時代から続く保命酒の歴史
保命酒の歴史は、江戸時代から現在まで受け継がれています。その背景にあるのは、商業港として栄えた鞆の浦の姿です。
商業の町である大阪と、長崎の出島のちょうど中央に位置する鞆の浦で生まれた保命酒は、やがて全国へと発信されていきます。幕府への献上品としても用いられ、ペリー来航の際は接待の席でふるまわれました。
2-1.今から約360年前に誕生した保命酒
保命酒が誕生したのは、今から約360年前の1659年(万治2年)のこと。大阪の漢方医「中村家」の子息である中村吉兵衛氏が「吉備の旨酒」に薬味を漬け込んだのが始まりです。
当時、鞆の津(鞆の浦)で造られていた「吉備の旨酒」は、現在のみりんにあたるお酒です。中村家は、薬味の買い付けで長崎の出島に向かう途中に鞆の津に立ち寄り「吉備の旨酒」に出会いました。
中村家の手によって醸造が始められた保命酒は、福山藩の庇護を受け全国へと広まっていきます。やがて、時代が明治の新体制に移り変わると、中村家以外にも数々の醸造元が誕生していきました。
時代は流れ、現在保命酒を製造販売する店舗は、鞆の浦にある以下の4店のみとなっています。なかには試飲ができる店もあり、鞆の浦の歴史を感じる観光スポットとして人気です。
入江豊三郎本店 | 広島県福山市鞆町鞆534 |
岡本亀太郎本店 | 広島県福山市鞆町鞆927番地の1 |
八田保命酒舗 | 広島県福山市鞆町鞆531 |
保命酒屋 | 広島県福山市鞆町鞆1013 |
※あいうえお順
2-2.ペリーや高杉晋作が飲んだという記述も
保命酒には、歴史上の偉人たちも飲んだという記述がのこされています。なかでも注目したいのが、黒船に乗ってやってきたペリー提督です。当時の様子をのこした史料には、福山藩主だった阿部正弘公が、接待酒として保命酒を使用したと記されています。
幕末の風雲児、高杉晋作もまた保命酒を飲んだといわれている偉人のひとりです。鞆の浦に立ち寄った当時の日記には「午後鞆津上陸、保命酒を求めかつ入浴」と記されています。
ほかにも、歴代徳川将軍や朝廷の公家にも愛されていたという保命酒。当時を想像しながら飲めば、味わいがまた格別なものに感じられそうですね。
3.保命酒おすすめの飲み方
みりんベースのリキュール「保命酒」は、しっかりとした甘さが特徴的なお酒です。冷やしたり、温めたりと好みにあわせてアレンジできます。
おすすめは、氷をたっぷり入れたロックスタイル。濃密な甘さ、香りはそのままに適度な飲みやすさが加わります。
また、カクテルベースの感覚で炭酸やジュースで割るのもおすすめです。ホットミルクや紅茶で割っても美味しく体がホッと温まります。保命酒のアレンジは、ぜひこちらの記事も参考にしてください。
まとめ
潮風香る鞆の浦で生まれたお酒「保命酒」。かつての偉人たちにも飲まれたお酒は、現在も鞆の浦の地で大切に守られています。生薬の成分がしみ出したお酒は、温めたり冷やしたりと、自分の体調にあわせて楽しむのもおすすめです。
鞆の浦でしか製造されていない保命酒ですが、現在はオンラインショップなどでも購入できます。もちろん、現地に出向いてお土産として購入するのもいいですよね。
その土地の風土を感じられるのもお酒の醍醐味。保命酒を通し、鞆の浦の歴史を感じてみてはいかがでしょうか。