日本酒造りには「醸造アルコール」と呼ばれる原料を使用することがあります。醸造アルコールを使った日本酒は、キレのある辛口タイプの味わいが特徴です。
今回は、醸造アルコールを使った日本酒の種類や、悪酔いしやすいといわれる理由について解説します。ぜひ、美味しい日本酒を楽しむ際の参考にしてくださいね。
1.日本酒に含まれる「醸造アルコール」とは?
「醸造アルコール」は、サトウキビからとれる糖蜜(とうみつ)やトウモロコシなどを原料にした蒸留酒のことです。酎ハイやサワーに使う甲類焼酎と同じ製法で造られています。サトウキビを使うからといって甘いわけではなく、ほぼ無味無臭のピュアな味わいが特徴です。
日本酒に使用する醸造アルコールの多くは、ブラジルや台湾などから輸入されています。輸入後は、日本の連続式蒸留器を使い、100%に近い純度の高いアルコールを抽出。醪に添加する際は、アルコール30%前後になるよう加水調整して使用するのが一般的です。
2.醸造アルコールが含まれる日本酒の種類と特徴
日本酒には、醸造アルコールが含まれるものと含まれないものがあります。添加の有無により、名前や味わいが異なるのが特徴です。それぞれの違いを理解すると、日本酒選びがさらに楽しくなりますよ。
2-1.醸造アルコールを添加している特定名称酒は「吟醸酒」と「本醸造酒」
「特定名称酒」は、日本酒の原料や製法を表す呼び名のことです。「吟醸酒」「純米酒」「本醸造酒」の大きく3つに分類されます。
このなかで、醸造アルコールが含まれるのは「吟醸酒」と「本醸造酒」です。「純米酒」は醸造アルコールを添加せず、米と米麹のみで造られています。
2-2.醸造アルコールが添加されている日本酒の特徴
普通酒の特徴
普通酒とは、特定名称酒に該当しないお酒のことです。日本酒市場における普通酒の割合は高く、全出荷量の約7割を占めています。あえて「普通酒」とラベル表記することは少ないため、特定名称酒の表示がないものは普通酒と考えてよいでしょう。
本醸造酒の特徴
本醸造酒は米と米麹、醸造アルコールを原料に造る日本酒です。精米歩合(せいまいぶあい)と呼ばれる米を精米する度合いは70%以下と定められています。使用する醸造アルコールの規定量は、白米重量の10%以下です。
普通酒より醸造アルコールの添加量が少ない本醸造酒は、味わいまろやかな辛口タイプのお酒です。冷やから燗まで、幅広い温度帯で楽しめます。
吟醸酒の特徴
本醸造酒と同様に、米と米麹、醸造アルコールで造る日本酒です。ただし、精米歩合は60%以下と定められています。
吟醸香(ぎんじょうか・ぎんじょうこう)と呼ばれるフルーティーな香りも特徴です。冷やか低めの常温で味わうと、華やかな香りをより一層楽しめます。
大吟醸酒の特徴
精米歩合50%以下と、一粒の米をより多く精米して造る日本酒です。米が水に溶けやすくなり、豊かな吟醸香を生まれます。
精米技術が進む近年は、精米歩合30%台の大吟醸酒も珍しくありません。リンゴや洋ナシのようなフルーティーな香りがありつつ、スッキリとキレの良い味わいが特徴です。
3.醸造アルコールを入れる理由
醸造アルコールは、主に味や香りの調整のために添加されます。醸造アルコールを使った日本酒は、後口のキレが引き立ち、辛口好きにも好まれる味わいです。
3-1.スッキリとした爽やかな飲み口になる
醸造アルコールを添加した日本酒は、キレのあるスッキリとした味わいに仕上がります。心地よい余韻がスッと引いていく、爽やかな飲み口が特徴です。特に、端麗辛口ブームが生まれた昭和後期には、醸造アルコールを添加した日本酒が多くの人気を集めました。
3-2.酒造の個性が出せる
醸造アルコールの添加量は、蔵のこだわりが現れる部分です。米との相性や製造法によって、味の仕上がりは大きく変化します。日本酒造りに欠かせない米や水と並び、酒造ごとの個性を引き出す原料といえるでしょう。
3-3.日本酒に香りを生み出す
醸造アルコールには、醪(もろみ)から香り成分を引き出す作用があります。平成に入るとフルーティーな香りの日本酒が人気となり、醸造アルコールを使った吟醸酒ブームが生まれました。現在も、ワイングラスで飲むような香り高い日本酒には、醸造アルコールを使用するケースが多く見受けられます。
3-4.雑菌やカビなどの繁殖を防ぐ
日本酒にアルコールを添加する製法は、江戸時代には誕生していたといわれています。焼酎を加えた醪が腐敗しにくいことを発見したのがその始まりでした。
醸造アルコールは、現在も防腐効果を目的に使用されています。火落ち菌と呼ばれる、腐敗のもととなる微生物の繁殖リスクを低下できることが大きな特徴です。
4.醸造アルコール添加の日本酒の悪いイメージはどこから?
醸造アルコールを添加した日本酒は「質が良くない」「悪酔いしやすい」というイメージを持たれることがあります。しかし、実際には醸造アルコールを添加しているからといって、質が悪いわけでも、悪酔いしてしまうわけでもありません。醸造アルコールの悪いイメージには、日本酒が辿ってきた古い歴史が関係していると考えられます。
4-1.悪いイメージは戦後の米不足から生まれた「三倍増醸酒」から
太平洋戦争の前後、物資不足の時代には醸造アルコールを添加した「三倍増醸酒(さんばいぞうじょうしゅ)」と呼ばれる日本酒が流通していました。現在は香りや香味調整のために使う醸造アルコールも、当時はかさ増しやコスト削減が主な目的だったのです。
三倍増醸酒には、醸造アルコールのほか、糖類や酸味料、グルタミンソーダが添加されていました。昭和後期に入り、ウイスキーやワインのようなさまざまなお酒が人気を見せると、三倍増醸酒は悪い評判がささやかれるようになります。
「三倍増醸酒は不純物が入っているから悪酔いしやすい」「すべての日本酒は三倍に薄めたお酒」といった、根拠のない批判が主なものです。
現在は特定名称酒によって一定の原料や製法が分類されているものの、当時の悪いイメージが、そのまま現在の醸造アルコール添加のイメージにつながっているといえるでしょう。
4-2.「醸造アルコール添加だから悪酔いしやすい」ということはない
前述したように、醸造アルコールは甲類焼酎と同じ製法で造られる純度の高いアルコールです。「醸造アルコールを添加した日本酒だから悪酔いする」という根拠はありません。
醸造アルコールを添加した日本酒や、日本酒そのものが悪酔いしやすいといわれる理由には、アルコール度数が関係していると考えられます。
日本酒は、平均アルコール度数が15%前後と比較的高いお酒です。ビールのアルコール度数が5%であることを考えると、その違いがよくわかりますよね。
つまり、日本酒は飲み方次第では酔いやすいお酒だということ。ハイペースで飲んだり、飲みすぎたりすると悪酔いしてしまいます。醸造アルコールのみが悪酔いの原因ではないということを覚えておきたいですね。
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まとめ
醸造アルコールは、日本酒の味や香りの個性を生み出す原料です。酒蔵は醸造アルコールを使用し、さまざまな味わいの日本酒を造り上げています。
醸造アルコールが悪いイメージを持たれていたのも、今では過去のこと。キレのある辛口タイプの日本酒が好きな方は、ぜひ醸造アルコールを使ったお酒をチェックしてみてはいかがでしょうか。
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