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【KUBOTAYA】「美味しい」をつくる10の手――1人目 磨く手 広川 豊和

【KUBOTAYA】「美味しい」をつくる10の手――1人目 磨く手 広川 豊和

「久保田」などの日本酒を造る新潟の酒蔵、朝日酒造。品質本位の酒造りはそのままに、お客様の美味しさに挑戦しています。そんなお客様の「美味しい」を生み出すつくり手たちにインタビューします。彼らは「美味しい」にどんな想いで向き合っているのか、話を聞きました。第1回目は、米の磨きを担う広川さんです。

“米を磨く”が酒造りの第一ステップ

精米を確かめる手

米・水・米麹、たった3つの材料から造られる日本酒ですが、完成するまでには様々な工程を経て、多くの蔵人の手が加わっています。そんな酒蔵での酒造りにおいて、第一ステップにあたるのが、原料となる玄米の精米です。酒造りに使う酒米も、普段食べている飯米と同じく、精米してから使用されます。精米はお酒の味や香りに関わる重要な作業であり、酒造りにおいては“米を磨く”と呼ばれるほど。

そんな重要な“米の磨き”を担うのは、酒造り一筋25年の広川豊和さんです。「美味しい」のつくり手として大切にしていることを聞きました。

ドラマで見た酒造りの世界へ

米の磨きを担う広川

――本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、簡単な自己紹介と、朝日酒造で酒造りに携わり始めたきっかけを教えてください。

広川 豊和さん(以下、広川):出身は朝日酒造のある新潟県長岡市で、今年で入社25年になります。ボトリング課(お酒を瓶に詰める部門)と醸造課(酒造りの部門)を経験後、今の仕事である精米の担当になり、20年が経ちました。

日本酒の会社に興味を持ったきっかけは、『夏子の酒』という酒造りを題材にしたドラマで、お酒造りって面白そうだな、やってみたいな、と。当時は高校生で、進路を考えなければいけない時期だったんですよね。色々な酒蔵の求人があった中で、高校の先輩がいたという縁もあって朝日酒造を選び、今日まで至ります。うちの親父が「朝日山 百寿盃」をよく飲んでいて、子どもの頃から朝日山のラベルに馴染みがあったのも、決め手の一つでした。

第一ステップの「始まり」を担う

玄米を確認する手

――それでは、現在の仕事である精米について、簡単に教えてもらえますか?

広川:大まかに言うと、原料米である玄米を入荷し、入荷した玄米を品種、精米歩合(玄米を外側から削り、残った割合を%で示したもの)ごとに精米。仕上がった白米は1バッチ(1回分)ごとに分析を行い、品質を確認して、「久保田」や「朝日山」を造る醸造担当者へ供給することです。
中でも私は、精米計画を立てることと、原料米を手配することを担当しています。

――酒造りの第一ステップである精米の中でも、「計画を立てて、原料を手配する」という、始まりの部分を担っているんですね。精米計画とは、具体的にどういうものでしょうか?

広川:「この日までにこのお酒をこれだけの量つくる」という会社の製造計画を踏まえ、そこから逆算して、「それならこの日までに、この品種の玄米を、この精米歩合で、これだけの量、精米する」という計画です。
だから、私の仕事の七つ道具と言えばまずは電卓(笑)。必要な原料米が合計何キロなのか、といった計算に必須ですね。

――造るお酒の量は予め決まっていて、そこに向かって精米の計画を立てていくんですね。

広川:はい。計画を立てる上では、原料米の手配が重要となります。計画に沿って、決まった日までに原料米を入荷しないと、仕込みに間に合わない。計画の内容によっては、原料米の仕入先さんと交渉しなければならない時もあります。
加えて、運送会社さんとの運搬スケジュールの調整も仕事の一つです。運送会社さんもうちのお米だけを運送しているわけじゃないから、その日はどのくらいお米を運んでもらえるのか、トラックは何台空いているのか、などを確認しますね。
「計画を立てる」と言われて想像する仕事より、色んな人と頻繁にコミュニケーションを取る仕事だと思います。相手の手間や都合も考慮しながら進めていくようにしています。

“磨かれてきた”手で確かめながら、確実に行っていく

精米機を操作する広川

――酒造りの第一ステップである精米の中でも、始まりの部分を担っている広川さんにとって、「これをやらないと一日が終われない!」という仕事は、どんなものでしょうか?

広川:精米が順調に進んでいること、今の段階で計画に遅れはないことを確認することですね。

――精米機は、広川さんが帰った後も動いているとか。

広川:そうなんです。指定したプログラム通りに精米機が全自動でやってくれるんです。例えば、朝日酒造の主力商品である「久保田 千寿」の精米には、40~45時間くらいかかります。つまり、私が帰り、建物に誰もいなくなった後も、精米機は夜通し動いている。
なので、一日の最後に、精米は問題なく進んでいるかという確認をしないと、家には帰れないですね。

――精米のためのプログラム、というものがあるんですね。正直、全く想像がつかないのですが、具体的にどういったものなんでしょうか?

広川:精米機は、大きな機械の中で、金剛ロールというロール状の砥石を回転させることで、お米の表面を磨いています。通常だと1分間で650回転します。その回転を遅くして、1分間で500回転するデータを作ったり、そこに制御する電流値を組み合わせたりすることで、プログラムを作ります。それによって、お米の磨かれ方が変わります。

――そのプログラムを作って指定すれば、あとはプログラム通りに、精米機が全自動でやってくれる、と。

広川:その通りです。ただ、そのプログラムを作り、決めるのは、私たち人間の仕事です。
どうやってプログラムを決めているかと言うと、お米の作柄を見て決定しています。具体的には玄米の形状、割れ、そういう部分を見て、この品質であれば、回転数の遅いプログラムで精米してあげよう、といった具合です。
品質を確認する日々を繰り返すうちに、手で触れば玄米の品質が分かるようになりました。

――すごい! この20年間、“米を磨く”仕事に携わることで、広川さんの手が“磨かれてきた”んですね! その20年間の中で心がけてきたのは、どういったことでしょうか?

広川:やはり、「確実に」「計画通りに」「遅延なく」ということ。精米はお酒を造る工程の最初ですから、ここで躓いてしまうと、飲みたいと思ってくださっているお客様をお待たせしてしまうので。

――こんなことを聞いてはいけないのかもしれませんが、この20年間でそういう失敗はありますか?

広川:幸いにも今のところないですけどね。もし何かあったら、その時はきっと上司が、なんとか(笑)。
以前の上司からも、「何かあってもいいっけんに、まあちょっと思いっきりやってみれや」という言葉をかけてもらったことがあって。そういう風に言ってもらえると、やっぱりやりやすくなりますよね。

――それは頼もしい上司ですね! では、失敗について訊ねてしまいましたので、反対に、この20年間で最も達成感があった瞬間を教えてもらえますか?

広川:ミスなく、事故怪我なく一日が終わったなあ、と思う、そういった時かなあ。今日も何事もなく終わったな、と思える、それが一番です。

飲み手として、つくり手として

玄米を確認する広川

――ここからは少し質問の趣を変えます。広川さんが朝日酒造のお酒で一番好きなのはどれでしょうか? おすすめの飲み方もぜひ教えてください。

広川:昔ながらの銘柄である、「朝日山 百寿盃」ですね。今の時季だと、寒くなってきたので、そりゃもう熱燗で。逆に夏場なら、冷蔵庫で冷たくして。

――素敵ですね! お父さんがよく飲んでいたお酒を、大人になって造っている。そしてそれが一番お好きだなんて。

広川:味覚は親父に似たのかもしれませんね。

――最後に、朝日酒造の日本酒ファンの皆さんに、つくり手である広川さんから聞いてみたいことはありますか?

広川:聞いてみたいのは、どういうお酒を飲みたい? ということ。このご時世で飲む機会は少なくなってしまったかもしれないですけど、どういうお酒を飲みたいのかなあっていうのを聞いて、お客様に求められている美味しさを知り、それに応えるお酒をつくりたいですね。

――本日はどうもありがとうございました。

広川:ありがとうございました。

「美味しい」をつくる10の手 次回は蒸す手

 (14433)

インタビュー中の広川さんの口から自然と零れる「お米を精米して“あげる”」と言った言い回し。
お米のことも、「米」とは言わず、いつも「お米」と口にしていて、広川さんからお米への20年分の愛情を感じられる取材となりました。

日本酒の「美味しい」を生み出すつくり手10人に話を聞き、「美味しい」へ懸ける想いを語ってもらう連載、「美味しい」をつくる10の手。次回は、蒸米を担う小林さんが語り手です。

広川さんによれば「空気を和ませるユーモアの持ち主で、現場をすごく明るくしてくれる」とのこと。
そんな小林さんは、「美味しい」へ懸ける想いを、どんな風に語ってくれるのでしょうか。

次回は11月中旬頃、掲載の予定です。どうぞお楽しみに。

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