日本酒のラベルでも「生酛」という単語を見かけたことはあるけど、これはいったいどういう意味なのだろうかと疑問に思ったことはないでしょうか?
この記事では生酛による日本酒づくり「生酛造り」についてやその工程、生酛造りによって醸された日本酒の楽しみ方などを紹介していきます。
1.生酛造りとは?
生酛造りは、現存する酒造りの技法の中でもっとも伝統的で手間のかかる造り方です。
生酛造りを一言でまとめると「酒母を自然のチカラを利用して手作業で造る製法」になります。
この生酛造りでキーワードとなるのが「酒母」と「乳酸」です。それぞれについて解説していきます。
1-1.生酛の「酛」の意味は「酒母」
大桶での発酵に必要な酵母を、あらかじめ小さな桶で育てる工程を「酒母造り」といいます。
生酛造りでは、自然の微生物の生存競争を利用しつつ、熟練を要する複雑な工程と通常の三倍もの時間をかけて、精強な優良酵母を純粋に育てて酒母にし、醪(もろみ)のベースとなります。
1-2.生酛造りは自然から乳酸を育てる方法
酒母は、蒸米と米麹に少量の酵母を加えて培養しますが、ここで重要なのが適量の「乳酸」を含ませること。乳酸には、酒母を酸性に保ち、酵母を育てるとともに、雑菌を抑えるはたらきがあります。
酒母に乳酸を含ませるにあたり、蔵の空気中にある天然の乳酸菌を取り入れて、じっくり時間をかけて増やすのが生酛です。
自然にはたくさんの微生物がいて、常に競争が行われています。その競争を経て強い乳酸菌をうまく取り込み、育てる手法ですが非常に手間がかかります。
逆に生酛とは違い、もともと敵(他の微生物)がいない場所でつくられた「人工乳酸」を最初に添加するのが速醸。乳酸を造る必要性がないのでその分の工程を省くことができます。今はこのやり方が主流です。
2.生酛造りの工程
生酛造りにおいて代表的な3つの工程は「仕込み」「酛摺り(もとすり)」「暖気入れ」になります。
一つずつ解説していきます。
仕込み
生酛の「仕込み」は、まず酛麹、蒸米、仕込み水を、半切り桶(はんぎりおけ)という口が広く浅い桶に一定量ずつ入れ、よくかき混ぜます。
酛摺り
生酛造りならではの工程「酛摺り」。「山卸(やまおろし)」ともいいます。
蕪櫂(かぶらがい)という道具を使って、蒸米と麹をペースト状に丁寧に摺りつぶします。
暖気入れ
「暖気入れ(だきいれ)」は、暖気樽(だきだる)という道具を使って温度を高め、微生物の動きを活発にします。桶で丁寧に摺りつぶした酛は、壺代(つぼだい)という1本の小タンクに集められます。
暖気樽によって少しずつ酛の温度を上げていき、乳酸菌を育て、乳酸を生成させて雑菌を淘汰します。ここに酵母を添加すると、力強い酵母が純粋に育っていきます。やがて酵母自身が十分な熱を発するようになり、暖気入れ作業は不要になります。
3.生酛で造られた日本酒の特徴
生酛で造られた日本酒は、競争を生き抜いた酒母に育てられた酵母によって、深みのある味わいとコクが魅力です。
また生酛で造られた酒は、時間の経過による品質劣化が少ないのも特徴。熟成の速度がゆっくりである上に、成分に抗酸化性があって劣化しにくいと言われています。逆に言えば、熟成によってますます美味しく成長していくので熟成に向いています。
まとめ
生酛造りは伝統的な日本酒の製法ですがかなり手間のかかる製法なため、昨今では生酛造りで日本酒を造る酒蔵も多くはありません。
ですが自然の競争によって造られる生酛造りには生酛造りならではの味わいがあります。
もしお見かけした際は手にとって見るのもいいのではないでしょうか。
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