
2025年の今年、創業から90年を迎える「京料理 木乃婦」。
初代・髙橋元信 氏が畳十畳ほどの仕出し屋を創業。二代目・信昭 氏は大きな館を構え、店を収容200名を超える大型料亭にしました。現在は三代目の拓児 氏が店を取り仕切る、ミシュランガイドにも掲載されている京料理の料亭です。

髙橋 拓児 氏は大学卒業後に「東京吉兆」で5年修業、その後木乃婦 三代目主人となり、フランス料理や理論的な料理技術を駆使する新スタイルの日本料理に取り組むほか、シニアソムリエの資格も持っており、いち早くワインと京料理のマリアージュを試みた「ワイン献立」を生み出すなど、日本の食文化の進化に尽力されています。

日本酒ラボではSAKE CABINETでの-5度管理をおすすめしているのですが、髙橋 拓児 氏はSAKE CABINETが発売されてまだ間もない5年ほど前からSAKE CABINETを使用されておりました。
今回は特別な機会をいただき、京料理 木乃婦 三代目 髙橋 拓児氏に日本酒の保管や熟成、ペアリングに関する取材をさせていただきました。
目次
1.SAKE CABINETを導入したきっかけ
今でこそ、日本酒の氷温管理というのはある程度周知されていることかと思いますが、5年前はまだそこまで世に広まってはいなかったと思います。なぜSAKE CABINETを導入したのか聞いてみました。
「SAKE CABINET導入のきっかけは、約5年前に知人の紹介でおすすめされたので買ってみたのがきっかけです。結論から言うと、とってもいい商品だと思いますよ。」
「使い方は2パターンあって、1つ目はおいしいお酒を最高の状態でお客様に提供するために、-5度で日本酒を保存する使い方です。日本酒の劣化の原因となる「温度・紫外線・空気」の3つ、その中でも特に温度による劣化を、-5度による保存で抑えてくれるので、おいしいお酒を最高の状態でお客様に提供できることに繋がっています。」
「2つ目は、SAKE CABINETを使った-5度での日本酒の熟成を試みています。」
「最初はいい商品かどうか半信半疑だったので、ある大吟醸のお酒を複数本入れておいて-5度で1年ほど、入れていたのも忘れるくらいほったらかしにしてました。」
「いざ開けてみたらとても飲みやすく、おいしくなっていて、お客様に提供したら皆さんスイスイ飲まれるんですよ。作りたてのお酒って少し味が尖っていたり、アルコールの舌を刺すような感じとかがあると思うんですけど、それが安定してすごくまろやかで飲みやすいお酒になっていました。」
「そこから試みとして様々な日本酒をこのSAKE CABINETで熟成させています。」

2.-5度での保存と熟成で真価を発揮するSAKE CABINET
徹底された環境で、おいしいお酒をお客様に提供されている「京料理 木乃婦」。お店ではどのようなこだわりを持って日本酒を仕入れられているのか聞いてみました。
2-1.全ての日本酒を最高の状態で保存できる
「『京料理 木乃婦』では、火入れされている日本酒・火入れされていない日本酒などにこだわりはなく、本当においしいと思える日本酒だけを仕入れています。」
「そうなると、当然保存が難しい生酒が入ることもあるのですが、この劣化しやすい生酒の保存にSAKE CABINETは非常に適していると感じます。」
「ご自宅で生酒を開けて『最初に飲んだときより味が落ちている』と感じたことのある方には、ぜひSAKE CABINETで生酒を保存して違いを感じていただきたいです。」
2-2.SAKE CABINETでの熟成と相性の良い日本酒
日本酒の保存用としての使い方のほか、試みとして熟成をさせるためのセラーとしてSAKE CABINETを使用している髙橋 氏。
SAKE CABINETを使った熟成のポイントなどを聞いてみました。
「まず、SAKE CABINETで様々な日本酒を熟成させてわかったことは、目に見えていい方向に変わりやすい日本酒とそこまで大きな変化がない日本酒があるということです。」
「具体的には、スッと飲めるようなバランスのいいお酒はこういった熟成と非常に相性がいいです。口当たりは水のようにまろやかになり、おいしさが安定した味わいになります。逆に甘めで濃醇な味わいの純米大吟醸のようなタイプのお酒はあまり変化が見られませんでした。」
こういった観点からSAKECABINETで熟成させるなら、純米吟醸くらいのさらっとしたタイプのものがおすすめとのこと。
「あとはポテンシャルの高い貴醸酒もおすすめです。SAKE CABINETで-5度熟成させることで、すごく安定した味わいになる。元々、貴醸酒は老香(ひねか)が強めなお酒ですが、SAKE CABINETで熟成させることで老香はかなり収まりました。」
2-3.熟成用と普段使い用の2台併用がおすすめ
熟成をするためのポイントは他にもあると髙橋 氏は言います。
「基本的には熟成のために1度日本酒を入れたらもう触らないほうがいいですね。ドアの開閉を0にするのは難しいですが、極力開閉を減らすことと、SAKE CABINETに入れた日本酒は動かしたりしないほうがいいです。」
「ですので、お店のSAKE CABINETのドアには『トビラ開け閉めあまりしないで下さい』という張り紙を貼って、基本的には自分だけが開けるようにしています。」
「日常的にお酒を飲む場合、冷蔵庫やセラーのドアをよく開けますよね。開け閉めしてたら多少なりとも劣化していく。特に夏場は庫内と外気との気温差があって、一気に温度があがってまた-5度に落ち着くまでにラグが生じてしまいます。なので熟成を楽しみたい場合、SAKE CABINETは全く開けずに熟成をするための1台と普段使い用の2台あるとすごく便利だと思います。お店でも現在、2台目の導入を予定しています。」
また、SAKECABINETで保存・熟成したお酒でも取り扱いには注意が必要だと髙橋 氏はいいます。
「-5度で保存・熟成をしてSAKE CABINETから取り出した日本酒を振ったりしないことですね。マイクロな視点で見たときに作りたてのお酒のアルコールと水は構造体としてすごい分離しているんですよ。その構造体が寝かせることで安定するのですが、取り出した後に振ったりしたら、安定していた構造体が全て崩れて寝かせた意味がなくなってしまいます。ですので、保存・熟成させて動かしていない状態のお酒を注ぐおいしさってすごくあると思います。」
3.基本的に日本酒と料理にマリアージュはない
髙橋 氏に日本酒と料理とのペアリングについてはどのように考えられているのか聞いてみました。
「基本的に日本酒と料理のペアリングは考えていません。理由としては、日本酒はワインと違って料理の味を増幅させるようなお酒ではないからです。」
「歴史を振り返ると、日本酒はもともと『御神酒』というお酒がある通り、『清らかなもの』として神様へお供えするものでした。御神酒は神様とのコミュニケーションである神事にいただきますよね。また、酔うことで『神様の領域に近づけるもの』としても捉えられていました。」
「つまり日本酒というのは、人と神様とのコミュニケーションの間を取り持つ、酔うことを楽しむためのお酒なんです。ですので、ペアリングについては考えず、純粋においしいお酒で酔うことそのものを楽しんでいただきたいですね。」
「例外としては、8年くらい寝かせた貴醸酒があるのですが、『赤貝の酢味噌和え』を合わせたときは『これこそがマリアージュ』だと思いました。ただ、その貴醸酒のようなレベルまで手が加えられたお酒でないと、日本酒と料理のペアリングは成立しないと思います。」

おわりに

SAKE CABINETを熟成のために使用されていたり、分子レベルでマイクロな視点で考えられているなど、日本の食文化の進化のために挑戦と学びを続ける髙橋 氏だからこその目から鱗なお話の数々でした。
日本酒ラボでもSAKE CABINETを使った熟成はぜひやってみたいと思います。
「京料理 木乃婦」でも使用されているSAKE CABINETについて、詳しくは下記ページをご覧ください。
ー京料理 木乃婦
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