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【KUBOTAYA】日本酒「久保田」が誕生するまで―朝日酒造の歴史を辿る

【KUBOTAYA】日本酒「久保田」が誕生するまで―朝日酒造の歴史を辿る

5月21日は、日本酒「久保田」の誕生日です。新潟県の淡麗辛口を代表する銘柄となり、長年愛されている「久保田」がどういった背景で誕生したのか、「久保田」が誕生するまでの蔵元・朝日酒造の歴史をご紹介します。

5月21日は日本酒「久保田」の誕生日

久保田 百寿

長年に渡り、多くの日本酒ファンを魅了し続けている名酒「久保田」。百寿や千寿、萬寿など「寿」がつく名前でも知られ、新潟県の淡麗辛口の日本酒を代表する銘柄です。

そんな「久保田」が発売になったのは1985年5月21日のことでした。

昭和の時代に誕生し平成を経て令和に至っても、人々から愛され続けている「久保田」。今回は、そんな「久保田」が誕生するまでを、蔵元の朝日酒造の歴史とともに追います。

朝日酒造とは

朝日酒造社屋外観

「久保田」という日本酒を知っていても、朝日酒造という会社名にはピンと来ないという人も多いかもしれません。

朝日酒造株式会社は、水田と里山の広がる新潟県長岡市朝日で1830年に創業し、190年以上に渡って酒造業を営んでいます。代表的な銘柄に前述の「久保田」のほか、「朝日山」や「越州」などがあります。

創業地の地内を流れる清澄な地下水脈の軟水と、地域の農家とともに研究を重ねながら育てている良質な酒米、そして、越路杜氏から継承する知恵と基礎研究による技術革新で、新潟産にこだわった真摯な酒造りを続けています。

久保田屋から朝日酒造へ

1830年、「久保田屋」として創業

久保田、朝日山の通い徳利

1830年、江戸末期にあたる天保元年、現在の長岡市にあるかつて朝日村と呼ばれていた集落に、「久保田屋」という屋号を掲げた小さな酒蔵が誕生します。これが朝日酒造の原点であり、のちの日本酒「久保田」の名前の由来となるものです。

幕末から明治への変革期を乗り越えながら、品質本位を貫いてうまい日本酒造りに邁進していき、世間の信頼も厚かった久保田屋。そこで造られていた日本酒は「久保田の酒」と呼ばれ、初売りから順調に売れていきます。
しかし、この「久保田の酒」は、現在の「久保田」とは異なるものです。

「久保田の酒」で通ってきた久保田屋の日本酒は、明治の半ば頃から「朝日山」の名前で売るようになったといいます。「朝日山」の名前は、久保田屋創業の地、朝日村にちなんだものです。

この「朝日山」は、現在でも朝日酒造の代表銘柄です。朝日酒造のオリジンといえるこの銘柄は地元新潟県に根付いています。

1920年、朝日酒造株式会社創立へ

1924年に完成した朝日山蔵写真

1920年5月16日、朝日酒造株式会社を創立します。明治期から蔵を盛り立ててきた平澤與之助、順次郎の兄弟が、初代社長と専務に就任し、それぞれ経営と酒造りを担っていくことに。
会社の名称は近くにある通称朝日山や地域の名称、それに酒名の「朝日山」などを参考に「朝日酒造株式会社」としました。つまり、朝日酒造の造っている日本酒だから「朝日山」なのではなく、「朝日山」という日本酒から会社名が名付けられたのです。

1926年の販売店組織「朝日山会」設立や、1929年のホーロータンク導入といった当時最新の設備や施設のいち早い導入など、よりよい酒を造り届けるための取り組みを続けていきます。
「朝日山」は各品評会で最高位の入賞を続けていきますが、低アルコールの純米酒やスパークリング清酒など、当時としてはかなり先駆的といえる新商品の開発や販売も行なっていました。

常に時代の先を見据えた取り組みを次々と展開していくこの土壌こそ、1985年5月21日の「久保田」誕生の伏線となっていきます。

「久保田」誕生と躍進の時代

1984年、社運をかけた一大プロジェクトを始動させる

嶋悌司(左)と平澤亨(右)

戦後の混乱を脱した日本は高度経済成長期に突入し、日本酒の消費も拡大していきます。
朝日酒造では蔵の設備を増強し、増産体制を整えるとともに、看板商品「朝日山」の販売に総力を結集しました。創業以来150年近く「朝日山」のみを醸し、新潟県内最大の酒蔵へ成長していくのです。

しかしピークを迎えた経済成長と洋酒やビールの台頭により、日本酒の地位が揺らぎ始めます。そんな中、第4代社長に就任したのが、当時34歳の平澤亨(写真右)でした。

このころ、いわゆる地酒ブームが到来します。これを機に脚光を浴びた銘柄はやがて首都圏で評判となり、人気のあまり入手困難になります。一時期は通常の何倍もの価格で流通するなど、「幻の酒」とも言われていました。

また、当時の日本酒業界は大手酒造メーカーを中心に、大量生産・大量販売を背景とする廉売競争が勃発。「朝日山」も、酒ディスカウント店では安売り商材にされ、ブランドの毀損が著しくなっていました。生産量が少ない銘柄が幻の酒として持て囃される一方で、「朝日山」には量産酒のイメージが付きまとうようになっていたのです。

危機感を強めた若きリーダーは「量より質の時代」の到来を感じ、高品質な日本酒を適正な価格で届ける必要性を感じていました。そして、新商品の開発に乗り出します。目指すのは、幻の酒に負けない品質の酒でした。その開発を託せる人物として、新潟県醸造試験場長として、長年新潟県の日本酒の質の向上と酒造技術者の育成に努めていた嶋悌司(写真左)に白羽の矢を立てました。

平澤の覚悟と必死の要請、そして平澤と嶋、両者の「新潟から高品質な酒を適正な価格で提供したい」との共通の想いが実を結び、1984 年、嶋は定年退職を待たずに朝日酒造に入社します。

1985年、「久保田」誕生

新商品仕込みの様子

当時、都会に生きる日本人の労働の礎は、肉体労働から知的労働へ移り変わっていました。その仕事の変化から、食卓に並ぶ料理も濃味から薄味へと変化。嶋は、最高の“淡麗辛口”の日本酒の開発を決めます。生活者の視点に立ち、これからの時代に求められる「新しい美味しさ」を見抜いていたのです。

そして「日本酒の失地回復を図り、日本酒を真に文化の香り高い国酒に育て上げる」というミッションのもと、社運をかけた一大プロジェクトが始動しました。
まずは平澤と嶋の共通の想いを蔵人たちに理解してもらうことから始めました。当初、伝統へのこだわりから新しい酒造りに抵抗を示した蔵人も、不眠不休で奮闘する嶋の姿に徐々に意識を変えていったといいます。

新商品の酒米には、淡麗の味わいを求め、新潟県で生まれた五百万石を採用することに決めました。新たな酒は新潟の米・水・人で醸してこそ地酒ではなかろうか、「新潟発信」から旨酒を…根底には「オール新潟」への想いがありました。

嶋と杜氏、蔵人たちの試行錯誤の酒造りは日毎夜毎続き、品質は日に日に向上、納得できる酒を完成させます。「創業時の精神(初心)に立って良いものを造ってお届けしてゆこう」との決心から、創業当時の屋号、久保田屋の名を付けます。のちに朝日酒造の代表銘柄となる「久保田」の誕生です。

そして1985年5月21日、「久保田 千寿」、「久保田 百寿」が発売されました。

社運をかけた新たな日本酒は徐々に人気を獲得していき、それまで”芳醇旨口”が多かった日本酒業界で”淡麗辛口”という新たな価値観が共有されるようになりました。そして、普通酒が主流だった日本酒市場のなかで高級酒に光が当たるようになり、都市圏を中心に新潟地酒ブームが巻き起こります。「久保田」は、”淡麗辛口”の代表として「淡麗辛口=新潟県の酒」というイメージを決定付けたのです。

新たな変革の船出へ

「久保田」のラインアップ

1985年の誕生から35年以上経っても、なお愛され続けている「久保田」。

そんな「久保田」にも、進化の時が訪れます。食の多様化をうけて、日本酒の楽しみ方も変わってきました。朝日酒造が続けてきた品質本位の酒造りはそのままに、新しい美味しさを提案すべきタイミングがやってきたのです。

2017年、日本酒になじみの薄い若者層などファンの拡大を目指し、「久保田 純米大吟醸」を発売。同じ年に総合アウトドアメーカースノーピークと共同開発した「久保田 雪峰」を発売し、日本酒をアウトドアで楽しむという新しいカテゴリーを生み出しました。

そして時代は平成から令和へ。「久保田」も次のステージへと進化を加速させます。
久保田 萬寿」、「久保田 千寿」のクオリティアップや、「久保田 スパークリング」といった若年層もターゲットにした新商品の開発など、新時代の「久保田」、そして朝日酒造の熱意を形にした取り組みを次々と打ち出していったのです。

初心の息づく酒造り

1830年に久保田屋として酒造りをスタートさせたころの、品質本位を貫き、常に時代の先を見据える姿勢。朝日酒造には、今もなおその姿勢が息づいているのだと感じられる歴史がありました。
5月21日はぜひそんな歴史を噛み締めながら「久保田」を味わってみてください。
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