今回は、1505(永正2)年には現在の兵庫県伊丹市で創業していたという剣菱酒造「黒松剣菱 特撰」です。現在は神戸市東灘区御影本町にあり、灘の酒蔵を作った蔵のひとつで、記録がある1505年が創業年とされています。
剣菱酒造について
実は、「剣菱」という名前の由来はいまだにわからないそうです。江戸後期の文豪・頼山陽(らいさんよう)の「江戸で評判になるにつれ、江戸の人々が(剣菱と)呼称し、結果として商標名になっていった」(長古堂記/ちょうこどうき)ということですから、おそらく現在に続くラベルのマークを見たイメージなのだと思われます。地元で流通していた別名があったのですね。そのあとも、貴族の近衛家、赤穂浪士、8代吉宗などが呑まれたという記録もあるようです。1743年に蔵元が代わってからも江戸の酒番付で大関にランクされるなど、「伊丹の銘酒」として歌舞伎や川柳にも登場したりとエピソードを並べたらキリがないほどの歴史ある名酒ということですね。
その後、明治中期に4000石を超えていた剣菱の造石高が大正末には1000石以下まで減少し、昭和3年(1928)になってオーナーが灘の住吉に移転して酒造を開始しました。ですが、災難は続き、水害、企業統制令、空襲などがあり、それらを乗り越えた戦後、昭和24(1949)年に御影本町に移転し、現在に至ります。
また、しばらく経って、阪神大震災に被災して、独占状態だった「愛山」を高木酒造に譲渡したのは有名なところです。
「黒松剣菱 特撰」
国産米、醸造アルコール使用です。国産米とはなにかというのが気になるうえに、精米歩合も書いてありません。購入した吉池デパートにあった札には「山田錦、愛山」「70%精米」とありますので、そういうことにさせてください(笑)
「山田錦」と「愛山」といえば、現在垂涎の組み合わせですが、五合瓶で1310円とリーズナブルです。歴史ある蔵で、おまけに場所柄でも「山田錦」「愛山」を昔から使っていたので、そんな感じなのでしょうか。
味わいはといえば、家に着いて常温でいただきましたが、私の父親(91歳)世代が好んでいた「ザ・酒」の香りが鼻につきましたので、冷蔵庫で冷やしたうえで呑んだところ、若干香りはあるものの、酒本来の味わいを感じられました。吞み口はやわらかく、辛口で旨味がありますが、少し口に含んでいると甘味も感じられて後口もスッキリキレキレです。冷酒なら食中酒としていいですね。
「磯自慢」「九平次」「而今」などが美味しいと思える世代には、少し「昔の味わい」は微妙なところです。灘や伏見の大メーカーの酒を好んで呑めるよう、なんらかの変革を求めたいのですが、こういう味わいが好きな人もいると思うので、むずかしいですね。