今回は茨城県日立市で1869(明治2)年創業の森島酒造「森嶋 ひたち錦 純米吟醸」です。メイン銘柄は「富士大観」で、太平洋まで30メートルという「日本一海に近い酒蔵」です。
森島酒造について
昭和20年に戦災で焼失した蔵を、なんと大谷石で再建したという歴史があります。「森嶋」「富士大観」を醸しているのは杜氏の森嶋正一郎専務。森嶋杜氏は2006年に茨城県で初めて南部杜氏の試験に合格して、2015年に杜氏となりました。
南部杜氏協会は日本酒振興の意味合いもあって、岩手県だけでなく他県出身者にも南部杜氏への道を開いており、その試験に合格すると南部杜氏を名乗れるということです。社名の「島」は「山鳥」ではありませんが、蔵元は森嶋さんなので、その名を冠したお酒となっています。
現在、蔵元六代目となる森嶋正一郎氏が杜氏となって5造り目に自らの思いを形にしたのが「森嶋」です。ラベルには2011年の東日本大震災で崩れた大谷石の蔵のひとかけらをデザインしています。つねに日本酒界に「一石を投じる」ことを考えている森嶋杜氏の思いも込められています。
ちなみにメイン銘柄の「富士大観」ですが、日本画の巨匠、横山大観が水戸の出身で森島酒造4代目と親交が深く、ある年の新酒がいたく気に入ったようで、自分の名を冠してはどうかと提案されたそうです。昭和28年に日本酒「大観」が誕生し、それ以降、数々の賞を取っています。ラベルの「大観」の文字はもちろん横山大観によるものですが、達筆なので観が勉に見えてしまいますね。ラインナップには横山大観の有名な作品「白砂青松」を使ったものもあります。創業150周年を迎えた2019年から「富士大観」と徐々に名前を変えていき、現在は「富士大観」となっています。
「森嶋 ひたち錦 純米吟醸」
茨城県産ひたち錦100%使用で55%精米です。茨城県の食米「ひたち錦」は大粒で心白の発現が良い「岐系89号」を母、倒伏に強く病害にも強い「月の光」を父として育成された品種です。食用米としても使われるそうで、おかゆにすると美味しいということです。
おそらく甘味が出しにくいので、辛口に振ったのだと思います。控えめな香り、甘味少し、クセがなくスッキリした味わいが食中酒としてバツグンです。これからの季節に冷やして夏酒とするのにいいと思います。
森嶋はこれからも注目していきたい銘柄です。できれば富士大観も呑みたいのですけどね。