まいど!ゆーきです。
いろいろあった2020年、本当にたくさんの出来事がありましたがぼくの「夢」のひとつをついに叶えることができました。
菊の司酒造は2020年度「全量特定名称」をやっと実現することができました。
全量特定名称とは
日本酒のラベルに「純米大吟醸」とか「本醸造」などといった表記が書かれているのを目にしたことがありますか??
それらは「特定名称(とくていめいしょう)」といって、「極上」や「特選」などといった表示が禁じられている日本酒のルールの中で、言ってみれば日本酒のランクをお客様にお伝えするための、任意に記載することが許されている表示事項です。
「純米大吟醸」「純米吟醸」「(特別)純米酒」「大吟醸」「吟醸酒」「(特別)本醸造」がそれにあたります。
この辺の詳しいルールは下記のこらむをご覧ください。
じゃあ特定名称じゃないお酒とは。いわゆる普通酒です。
清酒の製造には白米の総重量の半数を超えない「副原料」の使用が認められています。「醸造アルコール」「糖類」「酸味料」などがそれです。菊の司酒造には大昔から「糖類」「酸味料」は存在していないので、副原料といえば「醸造アルコール」なのですが、目標の酒質実現のために必要な最低限の量しか使っていませんでした。「普通酒」スペックでも白米に対して10%ちょい。
醸造アルコールをなぜ添加するのか、そもそもの是非とは、みたいな話はめんどくさいので今回は割愛します。あくまで「目標の香味をなるべく自然な発酵過程で表現するため」のものであること、決して経済的な理由ではないことだけがご理解いただければ十分です。
ではなぜ、わざわざ普通酒をやめて全量特定名称にしたのか。
それは「製造年月」問題です。そうです。お酒の本質的な楽しみからすれば本当にくだらないことなのです。
日本酒業界を支え、大きな酒税納税額を占める「普通酒」ジャンルですがルールが非常に古く、今の市場においては冷遇されているといっても過言ではありません。
製造年月とはその名の通り「商品を製造した年月」なのですが普通酒と特定名称ではそのルールが全く違います。
普通酒はビンに詰めた日が製造年月です。分かりやすい。
対して特定名称酒は出荷する日が製造年月でOKなのです。貯蔵までが製法の一部として認められているためです。普通酒には貯蔵の概念すら認められていないのか…
日本酒には「消費期限」はありません。もともと保存飲料ですからね。親の仇のようにひどい扱いをしなければ日本酒が腐ることはまずありません。
しかし、「賞味期限」の存在は否めません。
当然ながら「こういう香味の状態でお楽しみいただきたい」と思って製造・管理しているので、酒蔵として、美味しくお召し上がりいただきたい期限はそれぞれあるかと思います。
ですが日本酒は賞味期限の表示がない。そこで注目されるのが製造年月なのです。
たとえば
「2020年12月に瓶詰したしぼりたての普通酒」
「2020年12月に瓶詰した3年前に造った普通酒」
「2020年12月に瓶詰され翌日に出荷された特定名称酒」
「2017年12月に瓶詰され2020年12月に出荷された特定名称酒」
さて、これらの商品に記載されている製造年月は?答えはすべて「2020.12」です。
出荷までの貯蔵も酒造りの一部なので、経済酒ジャンルまでこういった管理が行き届くようになったのは当社においてかなり革新的なのです。(一応絵に書いてみました) pic.twitter.com/9BI9JisptG
— 菊の司酒造|Kikunotsukasa (@kikunotsukasaTW) November 20, 2020
”
こうなってくるといかに製造年月表示が意味を成していないかということにもなりますが、ぼくが一番の問題にしたいのは、普通酒だけ貯蔵方法が著しく制約されがちということです。
なんだかんだ言って、製造年月が古い商品はどんな売り場でも嫌われます。なるべく搾り直後の無垢な原酒に余計なオフフレーバーを付けないためにすぐさまビンに詰めて、ビンで冷蔵貯蔵していても、かたや普通酒はビンに詰めた日。特定名称は出荷日なのです。
菊の司酒造は「全量ビン貯蔵」になりました
菊の司酒造が全量特定名称にこだわったのは全量ビン貯蔵にこだわっているからです。
もちろん、勘のいい方はお気づきかと思いますが醸造法はもとよりビン貯蔵は酒蔵にとって非常に手間とコストがかかります。タンクに貯蔵した方がスペースは省けるし、冷蔵貯蔵の環境が必要、そもそも容器に詰めなければいけないからビンやキャップなどの容器を商品が現金に変わるずっっっと前に支払わなければならない。
そこまでしてビン貯蔵にこだわるのは、原酒がもっているポテンシャルをなるべく損なわずに飲み手のみなさまにお届けしたいからです。
もろみをしぼったばかりの原酒は香り、味わいに曇りのないまさに無垢。
熟成の概念は当然否定しませんが、それこそ「良くも悪くも」そこからどんどん日本酒は変わっていきます。最低限、しぼりたてが持っているボリュームのままビンに詰めてしまえば、月日が経つにつれて素晴らしい熟成を遂げることが期待できます。
しかしタンク貯蔵の場合は劣化のリスクが非常に高い。
結局、付いてしまった老香(ひねか)に代表されるオフフレーバーやクセ、色を取り除くために活性炭素を酒に入れて、そのような成分を除去する手法がまだまだ一般的です。というか、菊の司もついこないだまでそうでした。
炭を入れればたしかにいくらか矯正はできるけど、吸着するのは悪い成分だけではなく、お酒が持っていた「いい香り」や「いい味」まで取り除いてしまいます。これでは農家さんが一生懸命育てたお米で、めちゃめちゃ大変な思いをして造った酒を自ら壊しているのと一緒です。
だから、菊の司酒造はあくまで全量ビン貯蔵を選びました。搾ってから3日以内に瓶詰しています。
いないと寂しい…そんな普段着を目指して
というわけで、菊の司酒造の「菊の司 和の酒」などの生き残り普通酒は2020年度の造りから本醸造酒になりました。価格の変更はございません。
高付加価値の日本酒づくりは今の日本酒業界で生き残っていくためには必須の課題です。でも、だからといって永年支えていただいたお客様に普段着でご贔屓いただいていたお酒が適当でいいわけがないのです。まして、簡単に撤退したくもありませんでした。
菊の司酒造だから表現できる、普段酒の世界があるのではないか。私たちが逃げてしまえば、その世界は変わりません。高い原料で手間をかけ高いおいしいお酒を造るのも大事だけど、寄り添える酒蔵でありたいと思いました。
いないと寂しい…そんな普段着のお酒をもっとおいしく。
これを追い求めていきたい。菊の司酒造のささやかな挑戦です。