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酒蔵や酒屋にある「杉玉」。その役割を知っていますか?

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酒蔵や酒屋にある「杉玉」。その役割を知っていますか?

執筆者情報

shiho
お酒とねこでできているライター。日本酒、ウイスキー、ワイン…すべてのお酒をこよなく愛す。酒好きが高じて利酒師免許を取得。 Instagramはこちら https://www.instagram.com/ushinaaa/

監修者

日本酒ラボ編集部
日本酒ラボに携わってから日本酒のおいしさ・奥深さを知り、唎酒師の資格を取得。日本酒ラボを通して、日本酒のおいしさ・楽しさを日本酒にもあまり馴染みがない方にもお伝えしていきます。

酒蔵や酒販店へ出かけると、入り口で「杉玉」を見かけることがあるのではないでしょうか。普段何気なく見ている杉玉には、歴史や役割が隠されています。

今回は、杉玉を飾る文化ができた背景や、杉玉が持つ役割について解説!日本酒好きが知っておきたい、杉玉に関する情報をお伝えします。

1.杉玉とは?歴史と役割

杉玉とは、酒蔵の軒先などに飾られる杉でできた大きな玉のことです。杉玉(すぎだま)のほか、酒林(さかばやし)と呼ばれることもあります。

杉の穂をボール状にした杉玉は、重たいものでは10kg~20Kg近くになるのだとか。緑色から茶色へと姿を変える杉玉には役割があり、はじまりは日本酒造りの安全祈願だったといわれています。

1-1.醸造の安全を願った杉玉

杉玉を飾る文化は、奈良県の大神神社(おおみわじんじゃ)からはじまったといわれています。大神神社では、毎年11月14日に日本酒造りの安全を祈願する「醸造安全祈願祭(酒まつり)」が開催されていました。

お祭りに使用されるのは、直径約1.5mもある大杉玉。江戸時代に入ると、杉玉を飾る風習は全国へと広がり、現在のように各地で杉玉が見られるようになりました。

現在、大神神社の酒まつりでは、全国から集まる酒蔵や醸造家に杉玉の授与がおこなわれています。また、各蔵では自らの手で杉玉を作るケースも少なくありません。

奈良県 大神神社(おおみわじんじゃ)
奈良県の大神神社(おおみわじんじゃ)

1-2.杉玉は「新酒ができたよ!」の合図

杉玉には、「新酒のできあがりを伝える」という役割があります。杉玉が飾られるのは、多くが冬の寒い時期。秋口から酒造りを始めた蔵では、その年初めての「新酒」が絞られます。新しく吊り下げられた杉玉は、青々とした緑色です。

季節が春から夏、秋へと移り変わるうちに、杉玉の色は茶色く変化します。と同時に、蔵で貯蔵されているお酒も、だんだんと熟成が進んでいくというわけです。

冬から春の搾りたてのお酒から始まり、夏は夏酒、秋はひやおろしと、季節ごとのバリエーションも日本酒の魅力のひとつ。酒蔵に飾られる杉玉を見つけたら、色の変化で日本酒の旬を感じてみてくださいね。

杉玉

2.なぜ杉を使う?日本酒と杉の関係

杉玉に杉の木が使われる理由には、日本酒と杉とのつながりが関係しています。そもそも杉は、日本原産の樹木。神様が宿るといわれていたり、道具の材料になったりと日本酒と密接な関係にあるのです。

2-1.神様の力が宿るといわれる杉の木

杉玉発祥の地、大神神社のご神体である三輪山は、松や杉、ヒノキなどに覆われた山です。なかでも杉は、神の力が宿る「三輪の神杉」といわれ、神聖なものとして扱われてきました。

また、大神神社には杜氏の神様「高橋活日命(たかはしのいくひのみこと)」が祀られていることからも、日本酒と杉には深いつながりがあるといえるでしょう。

杉の木

2-2.日本酒造りの道具に使用される杉

木桶や麹蓋(こうじぶた)など、日本酒造りに使用する道具には、杉を使用したものが多くみられます。

木桶

日本酒は、仕込んだり貯蔵したりする際にタンクを使用します。現在はステンレスやホーロー製が一般的ですが、かつては杉で作った木桶が使用されていました。

一度は姿を消しかけた木桶ですが、近年は、あえて導入する蔵も少なくありません。杉の木桶で造る日本酒は、微生物の働きにより複雑で個性的な味わいに仕上がるといわれています。

麹蓋(こうじぶた)

麹蓋(こうじぶた)は、麹を造る際に使用する長方形の容器のことです。麹づくりは高温多湿の環境でおこなわれ、温度管理が麹の出来を大きく左右します。

適度な通気性を持つ杉は、麹蓋に最適な材料。また、麹蓋の底の部分は、木を切るのでなく割ることで1枚の板にする特殊な技術によって作られます。日本酒と同様に、麹蓋も日本の伝統文化のひとつといえるでしょう。

甑(こしき)

甑(こしき)は、お米を蒸す際に使用する大きな木製の道具です。高温の蒸気にも耐えられるよう、甑の材料には、耐久性に優れた「柾目板(まさめいた)」が使用されてきました。

現在は木桶のように、甑もステンレスやアルミ製が主流です。大きな甑の製造には、杉の大木と職人の高い技術を要するといわれています。

樽(たる)

お祝いの席や式典などで目にする大きな樽(たる)にも、杉の木が使用されています。杉の樽に入れた樽酒(たるざけ)は、ほのかな木の香りが特徴です。樽酒を味わうときは、ぜひいつもの日本酒とひと味違う個性を楽しんでみてください。

3.杉玉は海外にも?どうやって作る?杉玉豆知識

杉玉のように新酒のできあがりを知らせるサインは、海外にもあるといわれています。そのひとつが、オーストリアの「ホイリゲ」に飾る松の枝。

ホイリゲとは、ワイン酒場や新酒のワインを意味する言葉です。オーストリアでは、新酒のワインができた合図として、ワイナリーがホイリゲに松の枝を吊るすのだとか。日本の杉玉のような文化が、遠く離れたオーストリアにあると思うとおもしろいですね。

また、杉玉は円状に組んだ金網に杉の葉を挿して作っていきます。青々とした杉がたくさんあるときは、自家製杉玉づくりにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

まとめ

酒蔵のシンボルのような存在の杉玉は、わたしたちに新酒のできあがりを告げてくれます。季節とともに色づく様子は、酒蔵の風物詩ともいえるかもしれません。

酒蔵で杉玉を見つけたときは、ぜひ役割や歴史を思い出してみてください。いつもの日本酒の味わいが、より奥深く感じられるかもしれませんよ。