
ペアリングという言葉は定番といっていいほど普及しました。お酒に合わせた料理が紹介されたり、飲食店で店員が提案してくれることもあるでしょう。ところが、実際に自分でペアリングをやってみようと思うと、どうやって組み合わせていいのかわからないことばかりではありませんか。ちょっとしたコツを掴めば、誰でも何処でも日本酒ペアリングは可能になります。まずは簡単なペアリング方法を試してみましょう。
外食でセルフペアリングに挑戦
相性抜群!絶対に合う食材はこれ
「チーズにワイン」は定説となっていますが、それ以上と言いたいほど相性バッチリなのが日本酒とチーズ。チーズに含まれる脂肪や塩気を日本酒は持ち合わせていません。そして、日本酒には甘味と旨味が含まれているため、お互いに補填しあうことで味にふくらみが出てくるのです。特にチーズは糖分がほとんど無いので、甘めの日本酒を組み合わせることで “マリアージュ” を体感できるでしょう。
居酒屋ではチーズ料理をよく目にします。チーズ春巻きや、もちチーズ焼き、他にもピザやグラタンなどメニューに組み込まれていることが多々あります。これらチーズを使った料理に純米酒を合わせてみることをおすすめします。
しかし、チーズには様々なタイプがあります。より本格的に美味しく味わうには色味や味の濃淡を合わせると良いでしょう。
熟成させるタイプのチーズは塩味が強いものが多く、チロシンという少々苦いアミノ酸とうま味成分であるグルタミン酸が生成されます。時間の経過とともにメイラード反応が進み褐色化します。例えば、玉ねぎをゆっくり炒めると飴色になる現象がメイラード反応。こういうコクのあるチーズには、同じように褐色化した常温熟成の熟成酒を合わせることで、旨味の相乗効果を得られます。
パルミジャーノのようなハードタイプの熟成チーズは、エステル類が多く生成されるため、パイナップルのようなフルーティーな香りを感じることができます。合わせるなら似たような香りを持つ吟醸酒がしっくりときます。
クリームチーズなどフレッシュなチーズには、あまり色の付いていない低温で熟成させたお酒を。氷温で長期間貯蔵したお酒、または秋に出荷されるひやおろしのような滑らかでまろやかな口当たりのものを選ぶと、クリーミーな舌触りのフレッシュチーズとテクスチャーが似ているためよく合います。
また、エポワスなどのウォッシュタイプは干物や漬物のような硫黄化合物の香り、ブリ・ド・モーなど白カビのチーズは独特の苦味とマッシュルーム臭が特徴で、ちょっと苦手とする方が多いかもしれません。こういった場合には濃淡を合わせるよりも、ドライで辛口、軽快さのある日本酒を組み合わせてみると、日本酒の優しい甘さでとても食べやすくなるのでお試しください。
ノリやわかめ、その他海藻類は、日本人の普段の食事に欠かせない食材です。昆布や鰹節も、料理で出汁をひく時に重要な材料のひとつ。
“磯っぽい香り” と感じる成分は、ジメチルスルフィド(DMS)という揮発性の硫黄化合物。ノリ(アサクサノリ)の香気成分にはアルデヒド類やケトン類があり、これらはグリーン系の印象を与えます。アオサなどの緑藻は、長鎖不飽和アルデヒド類が主成分で、きゅうりにも微量に含まれているため同じようにグリーンの印象と、草のようなメタリックさも感じます。これらが、樽酒と非常によく馴染むのです。樽酒は杉樽に貯蔵することで、杉の木の香り成分であるセスキテルペン類が溶け込んでいきます。樽貯蔵していないお酒にはこの成分が入っていないので、樽酒ならではの香り。ワカメやアオサ、ノリなどと一緒に樽酒を飲むことで、海藻類特有の磯臭いイメージだけではない、他の部分も感じ取ることができます。
鰹出汁の香り成分はとても多く複雑。焙煎の香りであるピラジン類、燻煙の香りであるフェノール類だけでなく、鰹本来の酸の香りや肉質的な香り、スパイスやグリーン系の印象もあります。香りだけでなく味も濃厚でイノシン酸を多く含んでおり、これに昆布の成分であるグルタミン酸が加わると旨味の相乗効果でより美味しく感じることが出来ます。日本人は昆布と鰹出汁の香りを嗅ぐだけで惹きつけられるのではないでしょうか。杉も身近に使われる材質で、お弁当のわっぱ、温泉やサウナの浴槽といったリラックスするものに使用されています。出汁と杉、この組み合わせはホッと心和ませる役割を果たしているように感じます。出汁の風味が濃厚な蕎麦屋で飲むとしたら樽酒が断然おすすめです。
自宅で簡単にペアリングを楽しむ
<似た者同士を合わせる>
甘酸っぱいお酒には甘めのものを。柿の白和えなど柔らかい口当たりのメニューがよく合います。穀物感のあるお酒には、肉じゃがなど根菜類を使った料理を。こうして似たイメージを合わせるだけで十分なペアリングが完成します。
フランスの家庭料理で定番として使われるレムラードソース。マヨネーズにアンチョビやケイパー、ハーブなどを入れて作ります。野菜にかけても、揚げ物に添えても、焼いたお肉にもよく合う万能ソースなのです。このソースにリンゴの風味はとてもよく合い、セロリの爽やかさも足すことで、ぐっと深みが増します。リンゴやパイナップルのようなトロピカルな香りのする大吟醸酒などに同じ食材を合わせることでピッタリとハマります。
【材料】
・鶏もも肉:1枚
・セロリ:1/2本
A
-マヨネーズ:大さじ4
-みじん切り玉ねぎ:1/6個
-おろしにんにく:少々
-みじん切りリンゴ:1/8個
-マスタード:小さじ1
-みじん切りケイパー(なくても可):10粒
【作り方】
① 鶏もも肉に塩と胡椒をふり、フライパンで皮目から焼く。セロリも加えてさっと火を通す。
② Aをよく混ぜ合わせる。
③ ①に②をかける。
<対照的なものを組み合わせる>
オイルが生野菜とお酒のつなぎ役となり、少なめの牛肉が香りとコクをプラス。甘くて爽快なにごり酒に苦味のある野菜サラダを合わせることで、甘苦いオトナなペアリングです。
【材料】
・牛薄切り肉:50グラム
・ベビーリーフ、クレソン、ルッコラ:適量
A
-ごま油:小さじ1
-塩、胡椒:少々
-白ごま:少々
【作り方】
① 牛肉をフライパンで焼いて醤油少々を回しかける。
② ①と野菜を和え、Aで味付けする。
<余韻に浸る>
淡麗辛口と言われるお酒は口の中をさっぱりとさせてくれますが、出汁の香りと穀物感のあるとろりとしたテクスチャーのものを合わせると、淡麗の中にもほのかな米っぽさや甘やかな部分が顔を覗かせます。ドライさだけでない、別の味わいを引き出し、モチモチとした麦が食感の楽しさを演出します。
【材料】
・里芋:5~6個
・麦(米粒麦、もち麦):小さじ2
・水溶き片栗粉:適量
A
-だし汁:2カップ
-みりん:大さじ2
-薄口醤油:大さじ2
【作り方】
① 里芋は下ゆでしてから、もち麦と一緒に鍋に入れてAで煮る。
② 10分ほど煮たら水溶き片栗粉でとろみをつける。
山廃仕込みなど、酸味でキュッと引き締まるお酒にチーズを合わせると乳酸の香りが引き出されクリーミーな印象がアップ。アミノ酸が加わることで味も持続し、アオサの香りの余韻も心地よく、お酒の味わいも長く続きます。
【材料】
・クリームチーズ:適量
・乾燥アオサ:適量
【作り方】
① クリームチーズを一口サイズに切る。
② アオサを細かくしてふりかける。
<料理に日本酒の香りを足す>
魚に柑橘をキュッと搾ったような手軽なペアリング。レモンやゆず、かぼすなど柑橘を使用したお酒はたくさんあります。特にゆずは強すぎない酸と程よい苦味が鯛の塩焼きの上品な脂と旨味にピッタリ。
豚の肩ロースは程よい脂と旨味がたっぷりな濃醇な味。これに生酒を合わせることで、生酒特有の爽やかで青々しい香りがプラスされ、塩と胡椒で焼くだけでも、まるでハーブを加えたかのような風味に。お肉のクセがなくなり上質な旨味を感じることができ、脂を流してすっきりした後味となります。鶏もも肉のグリルなどにも使える組み合わせです。
ペアリングの方程式がわかればいつでも楽しめる!

酒匠、料理研究家。1日も欠かすことなく酒を呑み続ける驚胃の持ち主。酒と蕎麦と音楽を愛する。著書「うち飲みレシピ」「スバラ式弁当」。