一般的な日本酒と比べて、個性豊かな味わいを楽しめる熟成酒。普段あまり馴染みはありませんが、実は奥深い日本酒なんです。この記事では、熟成酒の意味や定義、熟成酒の楽しみ方に加え、熟成酒の作り方、おすすめの熟成酒を紹介します。
熟成酒とは
「熟成酒」の定義
「熟成酒」もしくは「熟成古酒」とは、読んで字のごとく長期間熟成させたお酒のこと。ただし、熟成酒の定義にはこれといった決まりがありません。長期熟成酒や熟成古酒の普及などを目的に設立された「長期熟成酒研究会」によると、「満3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加酒を除く清酒」であるとしています。
とはいえ、純米酒や吟醸酒などといった特定名称酒のように、酒税法での定義付けは熟成酒にはありません。そのため、熟成酒や熟成古酒、長期熟成酒などさまざまな名称があり、それは酒蔵独自のものとなります。
また、2年熟成のものもあれば、20年熟成させたものもあり、熟成期間もまちまちです。ちなみに、一般的な日本酒も、まるみのある穏やかな味わいに仕上げるために、搾った後に数ヶ月から1年ほど貯蔵させるものもありますが、それらは熟成酒とは呼ばないのが一般的です。
「熟成酒」の特徴
日本酒は熟成を重ねるにつれて、色は山吹色から琥珀色へと変化し、香りはカラメルやハチミツなどを感じる複雑な香りに、そして、味はなめらかでコクのある濃厚な味わいに変化していきます。
また、日本酒というとフレッシュで華やか、お米の芳醇な味わいのものを思い浮かべますよね。それも日本酒の魅力ですが、熟成酒にはこれまで味わってきた日本酒とは違った、とろけるような甘くて芳醇な香りやスパイシーな味わいなど、新たな日本酒の魅力を発見できる楽しさがあるのです。
一般的な日本酒と比べて、熟成酒は「どんなお酒なのか分からない」「挑戦しにくい」などややとっつきにくい印象ですが、日本酒マニアを中心に人気を集めています。
「熟成酒」の種類
熟成酒は、醸造の仕方や熟成年数、貯蔵・熟成の仕方によって「濃熟タイプ」「中間タイプ」「淡熟タイプ」の3つに分けられるといわれています。熟成酒を試す際の参考にしてください。
・濃熟タイプ:本醸造酒・純米酒などを、常温で熟成したもの。熟成を重ねるにつれ、照りや色、香り、味わいが変化。個性豊かなタイプの熟成酒。脂分の多い料理やチーズやカレーなど、濃厚な味わいの食べものと相性抜群。
・中間タイプ:本醸造酒・純米酒・吟醸酒・大吟醸酒などを、低温から常温で熟成、またはその逆の貯蔵方法で熟成したもの。「濃熟タイプ」と「淡熟タイプ」の中間の味わい。程よい甘みや酸味、苦味のある食べものと相性がよい。酢豚やチョコレートなど。
・淡熟タイプ:吟醸酒・大吟醸酒などを、低温で熟成したもの。程よい苦味と香りが楽しめる。幅のある深い味わいが特徴。フランス料理やうま味成分のある食べものと相性がよい。グラタンや生ハム、イカの塩辛など。
熟成酒の楽しみ方
温度で楽しむ
熟成酒の醍醐味は、なんといっても温度で変わる味わい。もちろん常温でも楽しめますが、おすすめは熟成酒を温めてお燗にすること。熟成酒ならではの熟成香や風味豊かな味わいをより感じられるでしょう。
熟成酒ビギナーの方には、この熟成香に戸惑ってしまう方も。その場合は、お燗にするのではなく、やや冷やして味わってみると、熟成酒らしい味わいを楽しめるでしょう。ただし、冷やしすぎは禁物。熟成酒の味わいが消えてしまう恐れがあるので、少しずつ温度を変化させて楽しむのがポイントです。
種類で楽しむ
先ほど紹介した、熟成酒の「濃熟タイプ」「中間タイプ」「淡熟タイプ」の3つの種類は、熟成酒を楽しむうえでぜひ参考にしてほしい大事なポイントです。
熟成の変化を楽しみたい方には、じっくりと時間をかけて熟成した「濃熟タイプ」を、熟成酒ビギナーで「これから熟成酒に挑戦していきたい」「熟成酒を味わってみたい」という方には、熟成酒らしい奥深い味わいがありつつ、吟醸酒のようなスッキリ感もある「淡熟タイプ」がおすすめです。
酒器で楽しむ
日本酒の楽しみ方はさまざまですが、酒器によって味わいの感じ方が変わるのも日本酒の魅力の一つですよね。
熟成酒におすすめの酒器は、上部にかけて飲み口が閉じていくようなやや丸みをおびたタイプ。器の膨らみによって、注がれた熟成酒の香りがそっと広がります。その個性的で力強い熟成香や味わいを存分に味わうのにピッタリの酒器です。
実は自宅で熟成酒は作れる
熟成酒に向く酒・向かない酒
自宅で日本酒を熟成する際には、純米酒・本醸造酒・吟醸酒・大吟醸酒の日本酒を熟成するのがおすすめです。例えば、味のしっかりとした純米酒は力強いタイプの熟成酒に、繊細で香りのある吟醸酒は淡麗タイプの熟成酒になる傾向があります。
一方で、特に火入れをしていない、もしくは火入れを1回だけ行う「生酒」「生貯蔵酒」「生原酒」などは、酵素が生きておりアルコール発酵を続けるので酒質が変化しやすく、熟成に向いていません。
適切な熟成方法
純米酒や本醸造酒は、押入れや床下など直射日光が当たらない涼しい場所に常温で保存するのがベスト。一方で吟醸酒や大吟醸酒は、最初の1年間を冷蔵庫の中(4℃程度の場所)で保存し、そのあとは15~18℃程度の場所に保存しておくか、もしくはずっと冷蔵庫の中で保存するといいでしょう。低温でじっくりと熟成させることで、淡熟タイプに仕上がります。
最も大事なポイントは、日本酒に紫外線を当てないこと。紫外線を当ててしまうと味わいや香りが変わってしまうので、熟成する際には新聞紙を巻いたり、化粧箱に入れたりして保存してください。
また、「長期熟成酒研究会」では満3年以上熟成したものを熟成酒と定義していますが、自宅で作る場合は、あまり気負いせずに楽しく熟成するのがおすすめです。10年、20年と熟成して味わいの変化を楽しむのもよいですが、まずは1年や2年の熟成で熟成酒の変化を楽しんでみるのもよいでしょう。
酒どころ新潟の熟成酒3選
熟成酒といっても、何を選んだらいいのか分からないという方は多いのでは。この記事では、酒どころ新潟の中のおすすめの熟成酒をご紹介します。
※こちらの記事内で紹介した商品の価格は2023年5月11日現在のものです。
大吟醸 熟成酒 轍
「大吟醸 熟成酒 轍(わだち)」は、新潟県長岡市に酒蔵を構える朝日酒造の熟成酒。新潟のお米を使用した大吟醸酒を、3年の年月をかけて低温でじっくりと熟成しています。大吟醸らしい柔らかな味わいを残しつつ、熟成酒らしい風味も楽しめます。
とはいえ、熟成酒固有のクセのある味わいは少なく、熟成酒ビギナーにも手に取りやすい熟成酒となっています。常温もしくはやや冷やして飲むことで、柔らかな味わいをより楽しめるでしょう。
大吟醸 熟成酒 轍
720ml 4,400円(税込)
純米大吟醸 八海山 雪室熟成八年
「純米大吟醸 八海山 雪室熟成八年」は、新潟県南魚沼市に酒蔵を構えるは八海醸造の熟成酒。日本有数の豪雪地帯、魚沼の自然の力を利用して、1000トンに及ぶ雪を蓄えた低温貯蔵庫「雪室」で8年間熟成させています。3℃前後という低温で長期間寝かせることにより、淡麗な味わいを残しながら、なめらかで優雅な風味を持つ上質な熟成酒です。
純米大吟醸 八海山 雪室熟成八年
720ml 7,700 円(税込)
長期熟成古酒 悠久乃杜
「長期熟成古酒 悠久乃杜」は、新潟県長岡市に酒蔵を構える吉乃川の熟成酒。蔵の貯蔵庫で年月をかけゆっくりと熟成させた純米原酒です。熟成期間は様々で、一番短いものでも2012貯蔵開始のため10年以上、最も長いものでは、2000年に貯蔵開始されているので、20年間以上熟成されている酒もあります。長期熟成されているため、酒は琥珀色に変化し、芳醇な味わいとなっています。
長期熟成古酒 悠久乃杜
720ml 貯蔵年によって価格は違いあり