創業から300年以上の歴史を誇る老舗酒蔵「沢の鶴」。もともとは米屋の副業として創業し、米の旨味をしっかりと引き出した酒造りに取り組んできました。
そんな沢の鶴では「SHUSHU Light」や「生酛造りのきもとさん」「たまには酔いたい夜もある」など他の酒蔵にはない個性的な商品が展開されています。
これらの個性的な商品はどのようにして生まれているのでしょうか?今回は沢の鶴さんに個性的な商品を生み出す秘訣をお聞きしました!
目次
1.新商品発売に至るまでの裏側にはたくさんの工程がある
1-1.全ての社員がアイデアを提案できる環境
今回インタビューをさせていただいたのは、沢の鶴株式会社 マーケティング室 室長の宮﨑さん。まずは、普段マーケティング室ではどのような業務を主にしているのか聞いてみました。
「マーケティング室は大きく分けて5つの業務を担っています。ブランディング、営業支援、ECサイトのショップ運営、資材関係の調達、お客様相談室の5つです。さらにこの5つも細分化をしていくと様々な業務があるため、マーケティング室の業務は多岐にわたります。」
ー業務範囲がそこまで多岐にわたるというのは非常に驚きました!その中でも今回はブランディングについて、深掘りをさせていただきます。新しい商品を開発する時というのはどのような工程を踏んでいるのでしょうか?
「まずは商品アイデアがどこから出てくるのかについてです。これは主に4パターンありまして、1つ目はマーケティング室から『こういう新商品が作りたい』という提案を会社にして、会社側がやってみようかということであれば、そのアイデアが採用され進んでいきます。」
「2つ目が営業からのアイデアです。営業が消費者に1番近い立場で市場が今どういうものを欲しているのかという情報収集を常にしてくれているので、そこからアイデアを吸い上げて考えていきます。3つ目は他企業さんとのコラボです。これは最近力を入れているのですが、取引のある企業や、異なる業界の方と協力・共創して、新しいものを生み出すということをしています。」
「4つ目は社員からの公募です。会社にとってプラスになることであれば、応募できる環境が整っています。応募されたアイデアが形になったこともあります。」
「生まれたアイデアについては、マーケティング室で会社にとってプラスになるのか、売れる可能性があるのかを検討します。そのアイデアがいいものであれば、会社に提案をするという流れになります。」
1-2.商品コンセプトや酒質設計はどのようにして決まる?
ー沢の鶴さんでは様々な方面から、商品に関するアイデアが集まるようになっているのですね。商品のコンセプトというのはどのように決めているのでしょうか?
「コンセプトの決め方には色々な手法がありますが、王道のやり方としてはターゲットを作って、そのターゲットに向けて開発していくという手法です。他にはニーズ型とシーズ型と言われている手法を用いています。」
「ニーズ型というのは、市場で求められている情報を詳しく集めてそこに可能性があるのかを社内外で調べていく手法です。シーズ型は我々メーカーとして持っている技術や強みを見直して、それを市場に受け入れられるように合わせて商品を生み出す手法です。これらの手法を用いてコンセプトを考えています。」
ーコンセプトが決まった商品の酒質設計を考えているのはマーケティング室のみなさんですか?それとも現場で酒造りをしている方々でしょうか?
「酒質設計に関しても色々なパターンがあります。お酒造りの現場から『こんなにおいしいお酒ができました』ということもあれば、『こういうお酒を作って欲しい』という営業からのリクエストだったり、はたまた他社ではこんな面白い商品があるけれど、うちでも造ることができるかみたいな話だったり。」
「具体例として挙げると『たまには酔いたい夜もある』の酒質は瑞宝蔵の責任者が提案してくれました。この酒質は割って飲むと絶対おいしいよというアイデアを社内公募で出してくれました。」
1-3.新しい商品を生み出すのは簡単なことではない
ー宮﨑さんにとって、新しい商品を生み出す時に最も大切にしていることはなんでしょうか?
「私がいつも念頭に置いているのは『そのアイデアがユニークかどうか』です。ユニークっていろんな意味があると思うのですが、言い方を変えると差別化できているか、個性があるのかということですね。その商品を沢の鶴が出すということに意義があるのかいつも考えています。」
ーなるほど、たしかに「生酛造りのきもとさん」や「たまには酔いたい夜もある」などはユニークな商品ですよね。新しい商品を生み出す時に最も大変なことってどのようなことがあるのでしょうか?
「会社として一丸となって商品を消費者に届けるんだという意識の共有が1番大変ですね。新商品が消費者に届くまでには、造り手や売り手など多くの人が関わっています。多くの人が関わることで、解決すべき課題がでてくるので、それをクリアにして、商品を消費者に届けるんだという認識を全社員が持てるようにすることが大変です。」
ーそういった大変さから商品化にたどり着けないアイデアもやはりあるのでしょうか?
「商品化できないアイデアというのは山ほどありますよ。この仕事に携わってから100以上はあると思います。少し前にあった事例ですと、社内公募で採用されたアイデアが商品化の手前までいったのですが、コロナなどの社会情勢もあって、発売中止になったこともありましたね。」
ー新しい商品を生み出すというのはそれだけ大変なことなんですね…
2.自社にはない視点を活かして
ー「SHUSHU Light」では、デザイン事務所のシーラカンス食堂さん、「たまには酔いたい夜もある」「生酛造りのきもとさん」などは株式会社TRINUSさんなど他企業とタッグを組んで商品開発に取り組まれていました。タッグを組まれた背景としては沢の鶴さんの中に課題感があったからなのでしょうか?
「はっきりとした課題がありました。社内のみで物事を考えると固定観念に縛られたり、過去からの流れを汲んでしまい結果として同じようなものばかりができてしまう。沢の鶴だったらこれだよねというような既視感のある商品ばかりが生まれてしまうということが今も含めて多々ありました。」
「そういった状況を打開したいということで多方面にアンテナを張りました。シーラカンス食堂さんというおもしろいデザイン事務所さんに関しては、代表の方の講演を当時の上司がたまたま聞きに行ったことで繋がりが生まれました。TRINUSさんに関しては雑誌の記事で特集をされており、興味深い取り組みをされているなと思ったので問い合わせ、そこから協力して新しい商品を創るということがスタートしました。」
「商品コンセプトについてニーズ型とシーズ型という話が出たのですが、TRINUSさんからは弊社の長所や強みに着目していただいて、商品コンセプトに反映していただくシーズ型の手法をうまく用いて、今までにはない商品を生み出す手助けをしていただいています。」
3.他にはないユニークな商品をこれからも
ー直近ですと、「生酛造りのきもとさん」がリリースされて間もないですが、社内外の反応というのはいかがでしょうか?
「好評いただいておりまして、キャッチーな見た目なのでジャケ買いの可能性もあるという話も聞いています。ただ中身は本格的なお酒ですので飲んでいただいて、ジャケ買いした方でも味わいのファンになっていただけると思っています。」
ー「生酛造りのきもとさん」がリリースされてからまだ間もないですが、すでに次に作る商品は決まっているのでしょうか?
「まだ細かいことはなにも決まってないですが、しっかりユニークさをもったコンセプトの商品を引き続き作っていきたいと思っています。」
「触れておきたいのが2023年3月に立ち上げた『八継』という熟成酒のブランドをしっかり育てていきたいですね。熟成酒というのは非常に価値のあるものです。今回リリースした熟成酒は50年ものなんですけど、今から造ろうと思っても絶対に作ることができない唯一無二の価値を持っています。他にはないユニークな商品として熟成酒の価値をどのようにお伝えしていくのか3~4年の構想期間を経て、今年の3月にリリースしました。」
ー次はどんなユニークなコンセプトを持った商品がリリースされるのか非常に楽しみです!本日は商品開発について貴重なお話をたくさん聞かせていただきありがとうございました!
まとめ
日本酒の商品企画について我々消費者が見聞きする機会というのはほぼないと思うのですが、今回は沢の鶴株式会社 マーケティング室 室長 宮﨑さんにインタビューにて深掘りをさせていただきました!
日本酒が造られるまでには、現場で造られている方以外にも本当に多くの方が1つの商品に関わられているというのがお話を聞いて実感しました。
日本酒を飲むときは、その商品が生まれるまでの背景に想いを馳せながら飲むのも日本酒の楽しみ方の1つとしていかがでしょうか?
会社概要
社名:沢の鶴株式会社
代表者:西村隆
創業:享保2年(1717年)
事業内容:清酒「沢の鶴」の醸造、販売、及び関連事業
コーポレートサイト:https://www.sawanotsuru.co.jp/site/